東京大学宇宙線研究所(ICRR)は12月9日、地球から90億光年離れた場所に熱い酸素ガスを放出している銀河を12個発見したと発表した。

今回の成果は、同研究所のユマスラポン研究員と大内正己准教授の率いる国際研究チームによるもので、12月10日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載された。今回の研究は、日本学術振興会の科研費・基盤研究A(23244025)のサポートを受けて行われた。

天の川銀河のような銀河には、大量のガスの中で星が活発的に生まれている銀河もあれば、既に星の生成は終わり、最期を迎えるのを待っているだけの銀河もある。後者の銀河は「楕円銀河」とも言われ、この銀河は数十億年よりも若い星は存在しないため、星生成は数十億年前、もしくはそれ以前に終わったと考えられている。従来この星形成の終わりは銀河進化の最終段階で起こるとされるが、その物理的なメカニズムは解明されていない。一般的には、超大質量ブラックホールや星形成の熱により銀河からガスが飛び出すことが原因と考えられているが、これまでの観測では1つのエネルギー源でのみ調べられ、どのエネルギー源がどのように寄与することにより星形成が終わるのかを観測して調べることはできなかったという。

今回、同研究所のユマ研究員は、宇宙の中の酸素が恒星の中心で起こるような核融合反応によって生み出されることに着目。すばる望遠鏡の主焦点カメラであるSuprime-Camを使い、可視光の領域で電離した酸素ガスを放射している遠方の銀河を探した。すばる・XMM-ニュートン深探査(Subaru/XMM-Newton Deep Survey:SXDS)領域で探査は行われ、"宇宙膨張による赤方偏移"の効果を利用して探査・発見した遠方銀河を用いて行われた。

探査の結果、10万光年以上(天の川銀河の大きさに相当)の領域に酸素ガスが広がっている12個の銀河を発見。酸素ガスの空間的な広がりから、このような銀河を「[OII]ブロブ」と名付けたという。すばる望遠鏡の画像を見ると、酸素ガス(赤色)が銀河の星よりも広範囲に存在していることがわかる。

[OII]ブロブは本来、1年間に太陽の10から100倍の重さのガスから星が生まれるが、成長した[OII]ブロブは、星形成が活発な同じ重さの銀河よりも生成される星の量が少ないことがわかった。成長した[OII]ブロブはガス放出によって星形成の終わりをむかえているのだと大内准教授は考え、探査を行った時代の星形成銀河の約3%がガス放出の段階にあったことがわかり、銀河の形成・進化を理解する上で重要な知見が得られたという。

また、発見された[OII]ブロブのうち2つでは、すばる望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)による可視光領域の分光観測でもガス放出が確認された。研究チームにによる分光観測の結果、超大質量ブラックホールや星生成により放出されたと考えられるガスによる吸収が確認されたという。

さらに、[OII]ブロブのうち1つは、ガス放出の速度が時速600kmと非常に速く、超大質量ブラックホールによるガスの強い流れが起こっていると考えられるという。[OII]ブロブ1と名付けられたこの銀河は、同研究で発見された[OII]ブロブの中で最も大きく、天の川銀河の2倍以上の大きさおよび25万光年もの範囲に広がる酸素ガスでできているという。

研究チームでは、巨大な[OII]ブロブはX線観測でも確認が可能で、超大質量ブラックホールが活動していることがはっきりとわかることで、この銀河は超大質量ブラックホールによるガス放出の謎を解くための鍵になる可能性があると考え、研究を続けていくとしている。

すばる望遠鏡の観測データによるカラー合成イメージ。それぞれ、[OII]ブロブ1とその周辺領域(中央の大パネル)、[OII]ブロブ1の拡大図(右上の中パネル)、他11個の[OII]ブロブ2~[OII]ブロブ12(左右の小パネル)。小パネルの各辺はそれぞれ40万光年に対応する。比較のため、右上パネル左上に、[OII]ブロブと同距離にあると想定した場合のアンドロメダ銀河画像(提供:ロバート・ジェンドラー氏)を表示している。 (C)国立天文台、東京大学(Suraphong YUMA)