東京大学と科学技術振興機構(JST)は12月23日、関節リウマチ(RA)の発症の鍵となるT細胞を発見したと発表した。成果は東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座 免疫学分野 高柳広教授と小松紀子客員研究員、科学技術振興機構 課題達成型基礎研究「高柳オステオネットワークプロジェクト」らの研究チームによるもので、2013年12月22日(米国東部時間)発行の米国科学誌「Nature Medicine」のオンライン版に掲載された。

RAは関節の炎症と骨破壊を主症状とし、日本では推定70~80万人が発症している最も頻度の高い自己免疫疾患の1つ。疾患の進行は生活の質の低下や死亡率の上昇に繋がることから、RA治療法の確立は社会福祉向上のためにも喫緊の課題となっている。RAの発症に重要なサイトカインである腫瘍壊死因子TNF-αやインターロイキン(IL)-6を阻害する抗体製剤はRAの治療薬として使用されているが、高価だったり人によっては効果が現れない場合もあるという。RAの発症メカニズムは不明な点が多く、このため根本的な治療法もいまだ確立されていないのが現状だという。

T細胞は、抗原を認識する能力や免疫反応の"司令塔"としての機能を持つ細胞であり、免疫応答を抑制する制御性T細胞と促進するヘルパーT細胞の2つが存在する。病原体を排除するための適切な免疫応答の促進や、排除された後の不要な免疫応答の抑制は、健康を維持するために重要で、健康な状態では制御性T細胞とヘルパーT細胞の働きの均衡がとれているが、このバランスが破綻するとアレルギーや自己免疫疾患が発症すると考えられている。RAにおいても、遺伝子解析や臨床所見などからT細胞の重要性は明らかにされており、制御性T細胞とヘルパーT細胞のバランスの制御が重要であると考えられている。

近年マウスを用いた実験により、サイトカインIL-17を産生するTh17細胞と呼ばれるヘルパーT細胞が、関節炎を含めた自己免疫疾患を引き起こす原因となることが知られており、Th17細胞を標的とした治療法の開発が期待されている。しかし、RAが発症する過程におけるTh17細胞の分化のメカニズムはよく分かっていなかったという。一方で、制御性T細胞は転写因子であるFoxp3を発現することで免疫抑制機能を発揮することが知られている。また、自己反応性の高い細胞としても知られており、そのような細胞が免疫抑制機能を持つことは、自分自身の細胞を攻撃しないという自己寛容を維持するための合理的なシステムであると考えられる。もし自己反応性の高いT細胞が免疫抑制機能を担うFoxp3の発現を消失したら、自己免疫疾患を引き起こす細胞へ転換してしまう可能性が考えられるが、この可能性はこれまで証明されていなかったという。

今回研究チームは、自己免疫疾患を促進するTh17細胞は制御性T細胞が免疫抑制機能を担う因子Foxp3の発現を消失することで生じるという仮説を立て、RAのモデルであるコラーゲン誘導性関節炎を発症させたマウスを使ってこの検証に取り組んだという。

まず、Foxp3を発現するT細胞のうち、細胞表面分子CD25の発現の低い細胞をマウスへ移入すると、関節炎の炎症環境下でFoxp3の発現を消失しTh17細胞(exFoxp3Th17細胞)に分化転換することを見い出した。次に、Foxp3発現T細胞の運命を追跡できるようなマウスを作製し、このマウスに関節炎を発症させたところ、Foxp3を発現したT細胞から分化転換したexFoxp3Th17細胞が炎症関節に多く集積することが分かったという。また、DNAメチル化解析や発現マーカーの解析により、関節炎環境下でFoxp3の発現を失ったT細胞は、元々制御性T細胞としての性質を持っていたことが示された。これらの実験結果はRAのような炎症環境下では、免疫を抑制するT細胞がFoxp3の発現を消失し、免疫を促進するT細胞へ転換することを意味する。さらに、制御性T細胞からexFoxp3Th17細胞への分化転換は、腫れた関節の炎症滑膜で増殖する滑膜線維芽細胞がサイトカインIL-6を産生することで引き起こされることが分かったという。

これまでTh17細胞の起源はナイーブT細胞であると考えられており、ナイーブT細胞から分化したTh17細胞はRAの骨破壊を担う破骨細胞の分化を誘導することが分かっている。今回新しく同定した免疫を抑制するT細胞を起源とするTh17細胞(exFoxp3Th17細胞)は、これまで知られていたTh17細胞よりも強力に破骨細胞を誘導することが分かったという。

新しい病原体Th17細胞による破骨細胞の分化誘導(上は赤く染色された破骨細胞の像、下は破骨細胞の数)。新たに同定したTh17細胞(exFoxp3Th17細胞)はこれまで知られていたTh17細胞より3倍ほど強力に破骨細胞の文化を誘導することが示された

また、トランスクリプトーム解析の結果、exFoxp3Th17細胞はこれまで知られていたTh17細胞とは異なる遺伝子の発現パターンを持ち、関節炎の発症に関わる遺伝子群を高く発現していることから、新規の関節炎誘導性のTh17細胞であることが示唆されたほか、自己抗原であるコラーゲンに反応する細胞を含むFoxp3発現T細胞のうち、CD25の発現が低い細胞をマウスに移入した上で関節炎を誘導すると、Foxp3の発現の消失に伴い関節の炎症と骨破壊が増悪化することが見いだされ、exFoxp3Th17細胞の生体レベルでの関節炎誘導能が証明された。以上はマウスを用いた実験結果になるが、症状が進行したRA患者の関節ではFoxp3とIL-17の両方を発現するT細胞が多く存在することから、RA患者においても制御性T細胞がexFoxp3Th17細胞へ転換する可能性が示されたという。

自己抗原であるコラーゲンに反応性を示す細胞を含むFoxp3発現T細胞のうち、CD25の発現の低い細胞をマウスに移入した上で関節炎を誘導すると、exFoxp3Th17細胞の発生に伴い関節炎の増悪化が認められたという

以上の研究により、関節の炎症と骨破壊を強力に誘導するTh17細胞(exFoxp3Th17細胞)が新しく同定され、この細胞が免疫を抑制する細胞から分化転換することやユニークな遺伝子発現パターンを持つことが明らかになったという。

今回の研究は、健康状態では自己寛容を維持するT細胞が、炎症環境下において自己免疫疾患を引き起こすT細胞へと分化転換する可能性を示すものであり、自己免疫疾患の新しい発症機構を提唱するもの。新たに発見した関節炎の炎症と骨破壊を引き起こす病原性Th17細胞(exFoxp3Th17細胞)は、RAだけでなく多発性硬化症や全身性エリテマトーデスなどさまざまな自己免疫疾患の治療標的となる可能性を持っている。また、exFoxp3Th17細胞は、とてもユニークな転写因子群や細胞表面分子群を発現しており、新しい分子標的治療に繋がる可能性があります。このためTh17細胞の病原性を司る分子基盤の解明は、RAをはじめとする自己免疫疾患の新しい治療薬や診断マーカーの確立に貢献するものと期待できるとしている。

健康な状態では免疫を抑制するT細胞と促進するT細胞の働きの均衡が取れているが、このバランスが破綻すると自己免疫疾患が発症すると考えられている。今回の研究により、新しい病原性T細胞(exFoxp3Th17細胞)を発見され、この細胞が免疫を抑制するT細胞からの分化転換を強力に誘導することが明らかになった。この細胞は自己免疫疾患の治療標的となる可能性を持っており、新しい治療薬や診断マーカーの確立に繋がることが期待できるとしている