ヤクルトは11月26日、ヤクルト本社ヨーロッパ研究所の研究成果として、出産前の母親の腸管内に常在するビフィズス菌が新生児の腸管に受け継がれることを明らかにしたと発表した。

同成果は同社および同社ヨーロッパ研究所、ニュートリシア・リサーチ・ユトレヒト・オランダらによるもの。詳細は、米学術誌「PLOS ONE」に掲載された。

ヒトの腸内には1000種超、総数にして約100兆個の細菌が棲みつき、複雑な腸内細菌叢(腸内フローラ)を形成していることが知られており、ヒトの健康や感染防御に影響を与えると考えられている。また、胎児は母親の子宮内では無菌状態だが、出産時において産道に定着している細菌との接触あるいは近親者・医療従事者・環境を介して細菌と接触する機会に巡り合い、新生児の腸内細菌叢が形成されていくことが知られている。

そうした腸内細菌の中でもビフィズス菌は、新生児の腸管内では、出生後の早い段階から多数を占める細菌として知られており、免疫が発達していない新生児の感染防御や乳幼児期の粘膜免疫系の発達において、重要な役割を果たすことが報告されてきたものの、新生児に定着しているビフィズス菌の由来についてはよく分かっていなかった。

これまでの研究から研究グループでは、健康な妊婦を対象に、出産前の妊婦および出生後の新生児の便からビフィズス菌を経時的に単離し、8組の自然分娩母子のうち6組において、母親と同一菌株のビフィズス菌が新生児から検出されることを報告していたが、今回の研究では、この成果を踏まえ、複数種類のビフィズス菌株に関して、腸管内に常在しているビフィズス菌をそれぞれ単離し、それらが同一の菌株であることの実証に挑んだほか、分娩様式の異なる母子を対象に、分娩様式による差異についての解析を行った。

具体的には、ベルギー在住の分娩様式の異なる17組の母子(自然分娩:12組、帝王切開:5組)の便からビフィズス菌を経時的に単離し調査を実施。その結果、自然分娩で生まれた新生児11名から、母親と同一菌株のビフィズス菌(B. adolescentis、B. bifidum、B. catenulatum、B. longum subsp. longum、B. pseudocatenulatum)が分離され、自然分娩では母親から新生児へ複数のビフィズス菌種が受け継がれることが明らかとなったほか、帝王切開で出生した新生児でもビフィズス菌が検出されたものの、母親と同一菌株のビフィズス菌は検出されず、腸管内におけるビフィズス菌の定着も自然分娩児と比べると遅いことが確認されたという。

なお、研究グループでは、今回の成果を受けて、母親から新生児へビフィズス菌が受け継がれることは、出生後早期にビフィズス菌が優勢な腸内細菌叢が構築され得る要因の1つと考えられるとしているほか、母親から受け継がれたビフィズス菌は腸管内において優勢に増殖しており、まだ免疫が発達していない新生児を病原菌から守っていると推測されるとしており、生まれてくる子どもの健康のためには、妊婦が良好な腸内環境を維持することが大切だと考えられるとしているとコメントしている。

母親および新生児から同一菌株のビフィズス菌が分離されたケース。5(A)と5(B)は双子。●は母親と新生児で同一菌株のビフィズス菌が分離されたことを示しており、空欄は母子間で同一の菌株が分離されなかったことを示している

母子から分離されたビフィズス菌のAFLPパターンと系統関係。6組の母子それぞれから分離されたB.longum subsp.longum菌株のAFLPパターンの系統関係を解析した結果、各母子それぞれにおいて、分離された菌株は同一であることが確認された(各点線枠内は同一菌株であることを示している)