浜松ホトニクス(浜ホト)は、工業用デュアルエナジーX線CTを実現する、独自のシンチレータ両面観察方式(DSSD)の基礎技術を開発したと発表した。

近年、非破壊検査用途で工業用X線CTの需要が高まりつつある。X線CTで、複数の物質から構成される検査対象物から、特定の物質を選択的に抽出・分別する場合、これまでのシングルエナジーX線CTでは、使用する管電圧によって結果が変わってしまうという課題があった。これは、物質を透過したX線を輝度情報のみで検出する場合、重くて薄い物質と軽くて厚い物質が同等の信号となってしまうことに原因があったという。また、シングルエナジーX線CTは、実用面において、虚影や異常画像が現れる線質硬化異常画像などの問題もあり、画像処理ソフトによる画像の補正が必須となっていた。

医療分野では、人体X線透過画像から骨や血管などの特定した構造を選択的に抜き出して再構成をする必要性が高まっているため、デュアルエナジーCT撮影手法が急速に広まりつつある。デュアルエナジーCTでは、異なるX線波長で複数回撮像する必要があるため、X線源と検出器が2対になった2管球方式や、2回撮影する2回転方式、および管電圧高速スイッチング方式などが用いられているが、シングルエナジーCTに比べるとコストが高く、被曝量と計測時間が増加するなどの問題があるため、工業用途においては普及していなかった。

そこで今回、独自のX線源、高感度デジタルカメラ、シンチレータプレートの要素技術を組み合わせることで、工業用デュアルエナジーX線CTの基礎技術を開発した。採用したシンチレータ両面観察方式は、X線を可視光に変換する2種類の異なるシンチレータを、遮光板や反射板で張り合わせ、低エネルギーと高エネルギーの異なるエネルギー画像を両面から、光学レンズを介して2台の高感度カメラ(科学計測用CMOSカメラ)で同時に撮像するというものである。これにより、高エネルギー画像と低エネルギー画像が1回の撮影で取得できる。

シンチレータ両面観察の仕組み

また、同技術によって得られたデュアルエナジー画像から基底物質分解(Basis Material Decomposition)と呼ばれる手法を適用することにより、シングルエナジーCTで問題となる線質硬化アーチファクトが除去された仮想単色X線画像などの応用画像を作り出すことが可能となり、物質分別の精度向上が期待できる。さらに、シンチレータ、カメラ、光学倍率を容易に変更できるシンプルな構成となっているため、カスタマイズが容易なうえ、低コストで自由度の高いX線CTシステムが構築可能となる。

線質硬化によって現れる虚影や異常画像の例。(上)シングルエナジーCTにおける線質硬化アーチファクトの影響で、定量性に欠けた像になってしまう。(下)デュアルエナジーCTで作成した仮想単色X線画像では線質硬化アーチファクトが除去されていて、定量性の高い像が得られる

これまでのX線CTシステムは、検出器のサイズによって撮像対象のサイズが決まってしまう制約があり、様々な大きさに対応するには、複数の検出器を用意する必要があったが、検査対象の物質に最適なシンチレータの大きさや種類、厚みを変えることが容易ではなかった。また、システムの解像度に自由度を持たせることは困難だった。さらに、検出器にX線を直接照射するため検出器自身が被曝のダメージを避けられず、検出器の交換が必要となってしまうといった制約があった。

今回開発したデュアルエナジーX線CTシステムは、これらの問題を低コストで克服することが可能であり、検出器(デジタルカメラ)をX線照射範囲外に設置できることや1回の照射で同時にデュアルエナジーデータを取得することにより被曝が軽減あるいは防止されるため、X線照射を直接受けるシンチレータの交換のみで、メンテナンスコストを軽減できる。

同社では、複合素材など新素材の解析、金属加工品などのメタルアーチファクト効果の低減、スマートフォンや携帯端末などの非破壊検査(異常画像低減)、ダイヤモンドや鉄、レアメタル、レアアースなどの資源選別、工業製品の体積測定(相対値でなく定量的データ取得可能)、高ダイナミックレンジCTによる工業製品の高精度計測といった用途に適用できると見込んでいる。

独自のシンチレータ両面観察方式工業用デュアルエナジーX線CT実験機