産業技術総合研究所(産総研)は7月3日、理工貿易と共同で、最高加熱温度900℃の温度可変薄型試料台を組み込んだ小型超高真空プローバ装置を開発したと発表した。

同成果は、同所 電子光技術研究部門 酸化物デバイスグループ 相浦義弘研究グループ長、阪東寛上級主任研究員らによるもの。

今回開発した試料温度可変小型超高真空プローバ装置の特徴

次世代パワー半導体材料としてSiCやダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体が注目されているが、開発には高温条件下での動作試験が欠かせない。また、印刷薄膜回路、有機分子薄膜、機能性酸化物薄膜、金属量子細線、超伝導体など、従来のシリコン材料とは異なる新材料を用いたものも新たな機能を持つ素子の実現に向けて開発が進められているが、これらの動作評価においては、試作後大気中に出さずに超高真空中やガス雰囲気下、高温や極低温などを複合させた極端環境条件下で動作試験を行うことがあり、500℃以上の高温、10-5Paを上回る超高真空のような条件下での特性評価ができるプローバ装置が求められていた。

こうしたニーズから産総研では、これまでに超高真空中(到達真空度3×10-8Pa)、高温加熱・極低温冷却下(最低10K、最高900℃)で電気的特性を測定できる小型プローバ装置を開発してきたが、金属フィラメントによる傍熱式加熱機構を用いていたため、薄型にするには信頼性に難があるのに加え、フィラメントからの熱電子放出が微小電流測定を妨げるという問題があった。そこで今回、高温対応のセラミックヒーターを採用し、十分な熱接触、均熱性と熱膨張の自由度を両立させつつ昇温する手法を確立し、最高加熱温度900℃の薄型試料台を開発したという。

同装置は、探針保持棒の位置制御に、真空槽入口部に球軸受けを置きXYZ機構との接続部にユニバーサルジョイントを配したウォブルスティック型てこ機構を採用。これにより、真空槽の気密を保つための蛇腹の内径は球軸受けの球と同じ程度で、真空引き込み力も弱くて済むため、小型化、軽量化、低コスト化を実現しつつ、従来装置以上の性能を達成することに成功したという。

また、小型軽量化により、既設の試料作成装置の枝部に付加して、作製した試料を大気中に曝すことなく搬送し、その場で評価を行うことも可能となったほか、探針保持棒の途中に支点が加わるため、保持棒の剛性も向上し、探針位置の耐振性の向上も果たしたという。

ウォブルスティック型探針保持棒によるプローバ装置の小型軽量化・低コスト化

また、試料台を装置の中心から放射状に配置した低熱伝導度の薄肉ステンレス管部材によって保持し、冷却・加熱による試料台位置の温度変化を抑制することで、素子特性の温度依存性を、探針位置を補正せずに連続的に評価できるようにしたほか、試料台を極低温冷却、高温加熱する場合では、黒体輻射による周囲部材との熱のやり取りが問題になることから、室温部と試料台との輻射バランスを考慮して試料台を囲むシールド板の温度と形状を設計することで、試料冷却加熱性能と観察し易さの両立も図ったという。

対称構造で温度変化を抑制し、温度依存性の連続測定を可能にした試料台保持機構

さらに、高温用セラミックヒーターは、均熱性や試料台との密着性、熱膨張差などの課題があったが、高融点金属膜をコーティングするとともに、バネ性を持たせた保持機構によりヒーターと試料台との密着性を保つことで解決したという。

なお研究グループでは今後、試料台を水平方向に移動する機構を加えて大面積ウェハ試料に対応するほか、高周波帯での測定、超高真空中ホール測定への対応など、小型超高真空プローバ技術のさらなる高度化を進める予定とコメントしている。