新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2月25日、20の大学・研究機関・企業が参画した、自動車交通分野の省エネルギー対策を追求したNEDOのエネルギーITS推進プロジェクトが今年度で完了したことから、最短間隔4mで3台のトラックが隊列走行を行うといった、複数のトラックを操舵制御と速度制御により安全で効率的な走行を可能にする自動運転・隊列走行の成果「自動運転・隊列走行デモ2013 in つくば」を産業技術総合研究所(産総研) つくば北サイト テストコースにて実施した(画像1・2)。

画像1。追走・並走するバスから撮影。4mの車間とは、一歩間違えたら多重衝突必至の人間業ではない距離だ

画像2。陸橋から撮影。この車間で先頭車両がブレーキをかけてもほぼそのままの距離を開けて止まることが可能。

日本から排出されるCO2の約20%は自動車が排出源であり、CO2の排出を抑制するためには自動車の省エネルギー化が重要な課題となり、その解決に向けたITS技術を活用した環境対策や省エネルギーの研究開発が各所で進められている。

また、内閣府の社会還元加速プロジェクトは、渋滞に伴う損失や環境負荷を低減し、物流コストの縮減を図ることを目標として掲げており、省エネルギーに寄与するエネルギーITSは目標達成のための重要な施策と考えられているところだ。

今回のプロジェクトは平成20年度(2008年度)から約44億円の予算と5年の歳月をかけて進められた。カーブの半径が比較的大きく、信号のない幹線高速道路(首都高などの都市高速道路はひとまず除かれている)での運用をまず念頭に置いて開発が進められており、2010年9月には大型トラック3台による時速80km・車間15mの隊列走行が公開された。

今回はその技術をさらに高度化させたもので、カースタントなどは別としてももはや人の運転では成し得ない、わずか4mという(普通のセダンすら間に割り込むことは不可能)至近距離での隊列走行を実現した。

将来的に実用化が進んだとして、2020年までの第1段階の目標(コンセプトX)としているのが、省エネ化で2~3%、制御レベルは運転支援という具合。2020~30年のコンセプトYで省エネ化が10%、制御レベルが部分自動の高度運転支援を掲げる。そして最終目標となる2030年以降のコンセプトZでは、後続車は自動運転(無人運転が目標だが、有事に備えておそらくはドライバーが乗ることになる)により15%以上の省エネを達成するとしている。

また、技術の汎用性を向上させ隊列走行の早期実用化につなげるため、車車間通信を用いた車間距離制御と前方障害物認識技術を(画像3)、いすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスという国内大型車メーカー4社の大型トラック(画像4)に適用し、「CACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)」の実験車4台が製作された。実際には日野が4台製作しているので、大型は合計7台、小型が1台の8台が製作されている(画像5)。

画像3。トラックの全部にはレーザーレーダー、ミリ波レーダー、光車車間通信用受光部など各種センサが取り付けられている

画像4。今回製作された大型トラック7台。4m間隔隊列走行、先頭車両も自動運転を行なえるのが右側の3台

画像5。今回唯一の小型トラック。ただし、装備は結構ものものしい。残念ながら途中で故障が発生し、一部のデモを行えなかった

CACCとは2台目以降の後続車両用の技術で、先頭車両用の技術は頭のCのないACCと呼ばれる。ACCは車両の前方に搭載したレーダを用いて、前方を走行する(隊列を組んでいない他の)車両との車間距離を一定に保ち(操舵と速度の制御を行なう)、必要に応じてドライバーへの警告を行うというのが大まかなシステムの内用だ。

そしてCACCは、ACCに加えて、5.8GHz無線通信と光通信の2重化した車車間通信によって他車(先頭車)の加減速情報・操舵情報を共有することで、より精密な車間距離制御を行うシステムだ(画像6)。

なお、実用化された時は、先頭車両はどの車が務めるかその時によって変わるだろうし、長距離を走るなら先頭を一定時間や距離ごとに隊列のメンバーで交代していくということになると思われるので、CACCの技術一式が搭載される形になるはずである。ちなみに、操作に関しては、運転席には操作用モニタ(HMI)が取り付けられていた(画像7)。

画像6。光車車間通信用の受発光装置

画像7。運転席のHMI。先頭車両に試乗した際に撮影したもので、この時点で前方のセダンに追従するCACC運転で、ステアリングもオート

今回実現した技術では、通常時は道路の白線を2台の垂直に下方に向けられたカメラ(画像8・9)で認識し(カメラを前方に向けると雨や雪、そのほかの汚れなどで視界が悪化するため、真下の白線を見るようにした)、それを基準にして走行するが、分合流部、降雪などの悪天候時などの白線認識不可時は前方車を追従する。また、衝突回避の自動制御も行う形だ。

画像8(左)は車両前方の白線検出用のカメラで、画像9が後方のもの。2ヵ所にあるのは、白線に対して車体が斜めに走行しているか直進しているかを判別するためだ

具体的な要素技術は以下の5つである。

  1. 隊列形成(個々の車両の位置を認識して隊列を形成し管理する技術)
  2. 車線保持制御(道路端の白線を認識して操舵を制御する技術)
  3. 車間距離維持制御(車車間通信と車間距離検出によって車間距離を制御する技術)
  4. 障害物との衝突回避制御(障害物を検出し、レーンチェンジや非常ブレーキ制御を行う技術)
  5. 先頭車追尾制御(分合流部、降雪や悪天候時などの白線認識不可時に先行車を認識し追従する技術)

車間距離を短くして隊列走行することにより、先頭車と最後尾車の間に挟まれた中間車両は空気抵抗が低減するため燃費が向上する。先頭車両は単独で走る場合と変わらないか牽引するためにやや悪化する具合だ。最後尾車も後方に気流などの関係で引っ張られるので中間車両ほど燃費は上がらないが、もちろん先頭車両ほどではない。

しかし、3~4台の隊列で走行する形で(あまり隊列が長くなるとまた燃費が悪くなってくる)、その3~4台を平均すると燃費が向上し、4mの間隔で走れば、15%の燃費向上(積載条件や気象条件、路面状況などによってもちろん変化する)するというわけだ(画像10・11)。

また、4mという車間を詰めた状態で走れるので、現状の道路幅員を維持したまま交通容量を増大(単位道路距離あたりの走行台数が増加)でき、交通流の円滑化効果も期待される。

画像10(左)は3台隊列による空気流体シミュレーションや、先頭~最後尾車それぞれのCD相対値、隊列走行での省エネ率など。画像11(右)は、隊列実験での実際の燃費。先頭車はどうしても低いが、中間車や最後尾車がよくなるため、平均すると効率がよくなるというわけだ

さらに、今回のプロジェクトで開発された自動操舵システムや車車間通信を用いた車間距離制御システムなどは、各種の運転支援システムの高度化にも転用可能であり、高齢化社会における安全で環境に優しいモビリティ確保に貢献するといった副次的なメリットもあるというわけだ。

なお、各種の技術に関する話題などについては、別途のレポートを予定しているので、しばしお待ちいただきたい。