横浜市立大学は1月17日、米国国立衛生研究所との共同研究により、全ゲノム規模解析手法やバイオインフォマティクスを駆使して転写因子「IRF8」と「KLF4」による「単球」産生の分子メカニズムを解明したと発表した。

成果は、横浜市立大 学術院医学群免疫学の田村智彦教授、同・黒滝大翼 助教らの国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間1月15日付けで米国科学雑誌「Blood」オンライン版に掲載された。

単球は骨髄の「造血幹細胞」から産生される免疫細胞の1種だ。単球は「貪食細胞」で、ヒトの体に侵入してきたさまざまな病原体を食べて除去したり炎症を生じさせたりする重要な役目を担う。しかし、単球の過剰な産生や活性化はがんや自己免疫疾患、動脈硬化を増悪させることも知られている。

そして転写因子は、細胞内でさまざまな遺伝子の発現を制御するタンパク質で、免疫細胞の分化にも重要な役割があることがこれまでの研究によりわかってきた。しかし、単球の分化・産生がどのような転写因子によって調節されているのかについては不明な点がまだ多く残されているのが現状だ。

研究グループは今回、単球がその前駆細胞(単球の基になる細胞)から分化・産生される際に、「自然免疫細胞」の分化に重要な転写因子IRF8がどのように働くかを調べるために、独自の試験管内マウス単球分化系を用い、「全ゲノムクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)法」とマイクロアレイによる解析を実施した。

その結果、IRF8はゲノムのさまざまな場所に結合し、単球に関連する遺伝子の発現を促進することが判明。しかもゲノムに結合したIRF8はヒストン修飾などエピジェネティックな変化をもたらし、遺伝子の発現制御に重要な「エンハンサー」の形成を導くことがわかった。

さらに、どのような転写因子がIRF8の下流で働いているのかバイオインフォマティクス解析が実施された結果、iPS細胞の形成に重要な転写因子の1つでもあるKLF4が浮上。

Klf4遺伝子欠損マウスでは、一部の単球が産生されないことが報告されている。そこでIrf8遺伝子欠損マウスを解析したところ、Klf4遺伝子欠損マウスよりも重度の単球産生不全があることがわかった。

また、Irf8遺伝子欠損マウス由来の単球前駆細胞ではKlf4の発現が消失していることを確認。さらに、マイクロアレイを用いて詳細な解析を行い、KLF4がIRF8の下流の因子として作用し、IRF8による単球分化・産生メカニズムの一部を担っていることが明らかになったのである。

研究グループによれば、今回発見されたIRF8-KLF4転写因子カスケードにより制御される遺伝子を詳しく調べることで、単球産生の分子メカニズムの全貌が明らかになると考えられるという。その結果、単球の産生や機能を人為的に制御することが可能になり、種々の疾患の新規治療法開発につながることが期待されるとしている。

IRF8の異常は、「ヒト原発性免疫不全症候群」や慢性骨髄性白血病の原因の1つとしても知られている。今回の発見は、それらの疾患の病態や発症機序を理解する上でも重要な知見であると考えられるともコメントしている。

今回の研究内容の概略