東京医科歯科大学は、細胞内の一部を取り囲んだ袋状膜構造「オートファゴソーム」に細胞内の分解専門小器官「リソソーム」が融合することで行われる細胞分解システムである「オートファジー(自食作用)」は、オートファゴソーム表面に「SNARE(スネア)」と総称される分子群の1種である「シンタキシン17」が呼び寄せられることで働くことを発見したと発表した。
成果は、東京医科歯科大大学院 細胞生理学分野の水島昇客員教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、12月6日付けで国際科学誌「Cell」オンライン版に発表され、翌7日に印刷版に掲載された。
細胞が健全であるためには、細胞内のタンパク質や小器官が適切に分解され、常に新しい状態に保たれることが重要だ。オートファジーは、そのために必要な細胞内の大規模分解系の1つで、さらに細胞の新陳代謝、胚発生、神経変性抑制、腫瘍抑制、栄養飢餓適応反応、細胞内病原体分解などにも重要な細胞機能であり、現在注目されている生命現象の1つである。
その仕組みは、細胞内の一部を取り囲んだ袋状膜構造であり、直径約1μmのオートファゴソームが形成されるところから始まる。次に、分解専門の小器官であるリソソームがオートファゴソームに融合すると、オートファゴソームの内容物が分解されるという仕組みだ(画像1)。しかし、これまで細胞質を取り囲んだオートファゴソームが、どのようにリソソームと融合するのか、その部分がわかっていなかったのである。
画像1は、オートファジーによる細胞内分解の仕組み。細胞質の一部(タンパク質やミトコンドリアなどの細胞内小器官)がまず隔離膜によって取り囲まれ、オートファゴソームが形成される。次にオートファゴソームと、分解酵素を含んだリソソームが融合することによってオートファゴソームの内容物がまとめて分解されるという流れだ。
今回の研究では、オートファゴソームが完成すると、シンタキシン17がオートファゴソーム表面に呼び寄せられることが発見された。シンタキシン17は、細胞内の小器官や小胞同士を融合させるのに必要な、SNARE分子群の1つだ。シンタキシン17はリソソームの表面に存在する「VAMP8」という別のSNARE分子と結合し、それがオートファゴソームとリソソームの融合を引き起こすのである(画像2)。
また、シンタキシン17がオートファゴソーム表面に結合するためには、シンタキシン17の一部(カルボキシル末端の特殊な配列部分)がヘアピン型に折りたたまれることが必要であることも判明。
さらにシンタキシン17は、完成前のオートファゴソームである隔離膜には結合できないという特性もわかった。このことから、なぜリソソームは完成したオートファゴソームとだけ選択的に結合するのかという未解決の問題にも答えをだすことができたというわけだ。
リソソームは細胞内の分解工場に当たるため、リソソームとの融合は危険極まりない。よってリソソームとは簡単に融合しない仕組みになっているわけだが、オートファゴソームは今回発見されたシンタキン17の力により、リソソームと融合できるという特別な能力を与えられていることが確認されたのである。
オートファジーの活性低下は、神経変性疾患や老化の原因の1つと考えられている。よって、その基本原理を理解しておくことが重要だと、水島客員教授らはコメントしている。