明治大学(明大)は10月29日、同大学のガスハイドレート研究所を中心とする「表層ガスハイドレート研究コンソーシアム」は、2011年および2012年の夏、日本海とオホーツク海の排他的経済水域内において調査を実施し、上越沖と同様の「表層ガスハイドレート」が日本海とオホーツク海の複数の海域に分布することを明らかにしたと発表した。

表層ガスハイドレート研究コンソーシアムとは、明大の研究・知財戦略機構の特定課題研究ユニットの1つであるガスハイドレート研究所を拠点としており、北見工業大学、東京大学、千葉大学、熊本大学、大阪大学、信州大学、東京海洋大学、秋田大学、東京家政学院大学、学習院大学、生命の星・地球博物館、函館工業高等専門学校などの研究者および海洋電子の技術者からなる研究共同体だ。ガスハイドレートの産状と起源、環境インパクトと資源ポテンシャルの解明を目指して総合的学術研究と探査機器の開発を進めている組織である。

そして新しい天然ガス資源として注目されているガスハイドレートは、メタンやエタンなどの炭化水素ガスと水分子が作る氷状の固体物質だ。十分な量のガスと水が存在すれば、深海堆積物や永久凍土のような低温・高圧条件下で容易に生成し安定に存在するという特徴を持つ。

そうしたガスハイドレートの中の表層ガスハイドレートは、物理探査データなどから海底下数10mまで分布すると推定されており、今回の発見は、日本海やオホーツク海と同様の地質条件のほかの海盆にもたくさんの表層ガスハイドレート/「ガスチムニー」が分布することを示唆していることから、今後の調査展開が期待されるという。

またガスチムニーとは、反射法地震探査あるいはサブボトムプロファイラー探査で観測される、海底下に柱状に発達する音響的特異帯のこと。反射強度の著しい低下や"不鮮明な(カオティックな)"反射イメージで特徴付けられ、ガスの移動通路と考えられている。

ガスチムニーの水平断面の長径は数100m~3km、海底からの深度はサブボトムプロファイラー(測深深度は海底下100m程度)では"底"を確認できていないが、地震探査記録からその"根"は音響的不連続面より遥かに深い数100m~1km以上と推定される形だ。なお今回調査したすべての海域では、よく発達したチムニーが多数確認されている。

表層ガスハイドレート研究コンソーシアムは2011年および2012年の夏、日本海とオホーツク海の排他的経済水域内において、東京海洋大学の海鷹丸や、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の白鳳丸などによる音響敵地形地質調査と採泥・採水調査などの総合学術調査を6回行い、日本海東縁および北海道網走沖の表層堆積物中から塊状ガスハイドレートの回収に成功した。

2011年の白鳳丸調査(HK11-09)では、東京大学大気海洋研究所のNSS(自航式深海底サンプル採取システム)によりメタン湧出点付近のコアを採取し、海底のバクテリアマット映像の取得にも成功している。

これら海域および日本海南西縁の調査海域において、表層ガスハイドレートの集積を示唆する多数のガスチムニーと「メタンプルーム」が確認された。メタンプルームとは、海底から立ち上がるメタンガスの気泡およびガスハイドレート被膜で覆われたメタンガス気泡の密集帯のこと。

ガスチムニーを経て海底に達し深層水中に湧出したメタンガスの気泡は低温・高圧の深層環境でただちにハイドレート化し、ハイドレートの被膜で覆われたメタン気泡として海水中を浮上し"気泡"の柱(プルーム)を作るのである。網走沖では密集したプルーム群が確認されている(ガスチムニーが常にプルームを伴うわけではない)。

さらに堆積物コアの分析から、これら海域では深部からのメタンの供給(「メタンフラックス」)が極めて高いことも明らかにした。海底下数10m~数kmにおいて、有機物の微生物分解あるいは熱分解によって生成したメタンやエタンなどの炭化水素ガスは、浅所へ向かって拡散・移動しその一部が堆積物中にガスハイドレートとして固定される仕組みを持つ。従って、堆積物中のガスハイドレート量はこのメタン供給の仕組み、メタンフラックスに強く依存するというわけだ。

メタンは堆積物中の水(間隙水)に含まれる硫酸イオン[SO42-]を還元し消費するため、堆積物中の[SO42-]濃度の深度方向への減衰率や消滅深度(=SMI)からメタンフラックスの強度を評価することが可能。上越沖の表層ガスハイドレートが密集する場所(マウンド)では、SMI=1~2mだが、周辺部では4m以深だ。今回調査海域ではSMI<2mが広い海域で観測されている。

同コンソーシアムの前身である東京大学を中心とする研究グループは、2004年より日本海東縁上越沖(上越市沖30-50kmの上越海盆)においてガスハイドレートの産状と起源を解明するための学術調査を実施しているが、表層ガスハイドレートの集積は常にガスチムニーを伴い、強いメタンフラックスで特徴付けられることを明らかにしている。

この上越沖での調査では、表層堆積物中に塊状あるいは板状のガスハイドレートが密集して産し、海底にはしばしばマウンド(小丘)やポックマーク(すり鉢型の窪地)が形成されることが明らかにされた。

その分布とガス組成およびガスの起源から、表層ガスハイドレートの形成には日本海の形成(海盆の拡大と収縮、豊富な有機物、高い熱流量)が密接に関わると考えられるという。

また今回の調査により、日本海と網走沖オホーツク海の複数の海域で表層ガスハイドレートあるいはその存在を強く示唆するガスチムニーが多数確認されたことは、学術的にも資源探査の上からも極めて重要な意味を持つものといえるとしている。