国立天文台と鹿児島大学は、地球から2230光年の距離にある大質量星形成領域「Cep-A」の電波源「HW3d」に付随する「水メーザー」の相対固有運動を測定した結果、「双極流」が発見されたことを発表した。
成果は、国立天文台VERAグループと鹿児島大のJames O. Chibueze氏らの研究グループによるもの。詳細な内容は、2012年3月16日付けで学術誌「THE ASTROPHYSICAL JOURNAL」に掲載された。
メーザー(MASER)とは、Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiationの略で、「誘導放射によるマイクロ波増幅」という意味。分子雲の分子ガスが高密度の状態になって、分子同士ぶつかったり、星などから強い放射を受けたりすると、いくつかの種類の分子が電波を出しやすい状態(逆励起状態)になることがある。そこへ外から電波が入ると、刺激を受けた分子が電波を放出する仕組みだ。
そうして放出された電波は、また次の分子に刺激を与えて電波を放出させ、次から次へと電波が増えていき、そのガス雲を出る時には、入ってきた電波の強さは高い倍率で増幅される。こうして、「明るい」天体ができるというわけだ。このようにして増幅された電波は、波のそろった強力な電波となり、それをメーザーという。
メーザーは、分子の種類によって増幅できる電波の波長が異なり、水蒸気なら1.348cm、水酸基なら17.98cmという具合に決まっている。そのため、メーザーはスペクトル線として観測される形だ。
今回観測された双極流の大きさは、約280天文単位(1天文単位(AU)=約1億5000万km)。膨張速度は秒速21km/sと測定され、この双極流は誕生からまだ100年以内の若いものであることも判明した。
この結果は、HW3d領域でも若い星が誕生していることを示唆しており、若い原始星の性質や活動の解明に役立つことが期待されるとしている。