筑波大学は、プルシアンブルー類似体を用いることで、水溶液中のセシウム(Cs)イオンを高効率で結晶中に捕獲する性質を利用し、放射線量を瞬時に4000分の1に低減させることに成功したと発表した。

成果は、筑波大 数理物質系の守友浩教授、筑波大 アイソトープ総合センターの末木啓介准教授らの研究グループによるものである。

福島第1原子力発電所の事故により、現在、日本では放射性Csの除去が極めて重要な問題の1つとなっていることはいうまでもない。水溶液中に溶解しているCsイオンを除去する方法には、「沈殿法」、「イオン交換法」、「吸着法」、「蒸発法」などがある。中でも、イオン交換法や吸着法は簡便で高効率であるため、最も多く利用されている状況だ。

これらの方法では、多孔質なゼオライトやプルシアンブルー類似体が活物質として利用されているが、イオン交換法や吸着法ではCsイオンが活物質の表面付近に付着するだけなので、再溶解・再汚染の問題が生じる可能性がある。

そこで、研究グループはCsイオンを結晶内部にしっかりと捕獲する沈殿法の研究を進展させ、今回の発表に至ったというわけだ。

研究グループがこれまで着目して系統的な研究を進めてきたのが、「ジャングルジム構造」(画像1)を有するプルシアンブルー類似体だ。プルシアンブルーは金属イオンである「FeIIイオン」と「FeIIIイオン」が「シアノ基」によって交互に架橋したジャングルジム構造をしており、この金属イオンをほかの遷移金属イオンに換えたものがプルシアンブルー類似体と呼ばれる。

画像1。プルシアンブルー化合物のジャングルジム構造。赤丸と青丸は繊維金属、棒はシアノ基を表す

プルシアンブルー類似体による化合物は、ジャングルジム内のナノ空間にアルカリ金属イオンや水分子を収容できることが特徴だ。そこで研究グループは、繊維金属イオンの大きさを利用して、ジャングルジムの大きさをCsイオンの大きさである1.74Åに合わせることにより、Csイオンを高効率で捕獲できないかと考察。

その結果として、正イオンとして「2価のマンガンイオン(MnII)」を、負イオンとして「フェリシアンイオン([FeIII(CN6)]3-)」(画像2)を組み合わせることにより、100ppmのCs濃度を10万分の1の0.001ppmまで低減することに成功したというわけだ。

画像2。フェリシアンイオンの正確な化学式

しかし、現在問題となっている放射性Csの濃度は、0.01~0.1ppbといった低い濃度である。そこで、プルシアンブルー類似体が、実際にごく微量な放射性Csイオンを除去できるかどうかの実験も行われた。

実験方法を示したのが画像3である。流れとしては、以下の通り。(1)水溶液中に一定濃度(初期濃度)の放射性Csイオンを溶解。(2)プルシアンブルー類似体の原料であるフェリシアンイオンと、MnIIを、それぞれ5mmol/L加える。(3)沈殿物を除去。(4)処理前と後の放射線量を計測する、というものだ。

画像3。実験方法の概念図

実験で用意した放射性Csの溶解している水溶液(画像4・右)の放射能は2300Bq/Lで、水溶液中のCsイオン濃度は0.07ppbである。この水溶液を処理したところ、放射線量は0.57Bq/Lまで低減したというわけだ(画像5)。

また画像6は、研究グループの以前の研究(記事はこちら)での結果と今回のものをまとめたグラフだ。前回は、同じマンガンイオンでも「Mn2+」を使用。このグラフから、マンガンプルシアンブルー類似体は、極微量の放射性Csであっても、極めて高効率で除去できることがわかるはずだ。

画像4。処理前の水溶液がAで、処理後がB。どちらも黄色いのは、溶解させたフェリシアンイオンの色である

画像5。プルシアンブルー類似体による処理で放射能が低減したことを示すグラフ

画像6。処理前(○)と処理後(●)のCs濃度。今回の実験により、この手法が現実の放射性Cs汚染濃度に対して有効であることが実証された

なお研究グループでは今後、プルシアンブルー類似体の性能を活かした放射能低減技術の開発を目指すとしている。