横浜市立大学は、大脳半球内の先天性の異常である「孔脳症」の原因遺伝子を発見したと発表した。研究は同大学学術院医学群の才津浩智准教授らと宮城県拓桃医療療育センターとの共同研究によるもので、成果は米科学雑誌「The American Journal of Human Genetics」オンライン版に掲載された。

孔脳症は、大脳半球内に脳室との交通を有する嚢胞または空洞が見られる先天異常であり、胎生期における梗塞や出血といった脳循環障害により発生すると推測されている。臨床的には、脳性麻痺(多くは半身麻痺)、てんかんおよび精神遅滞を引き起こす重篤な疾患だ。諸外国では、発症率は10万人に0.5から3.5人程度とされているが、日本での正確な頻度は不明である。

研究グループでは、「IV型コラーゲンα1鎖」をコードする「COL4A1」変異が孔脳症を起こすことが報告されていたことから、α1鎖と「ヘテロトリマー」を形成し、「血管基底膜」の安定性に関与する「IV型コラーゲンα2鎖」(COL4A2遺伝子)に注目。そして、日本人孔脳症患者35名によるCOL4A2の変異解析を行い、2名においてCOL4A2遺伝子のヘテロ接合性変異を同定した。

IV型コラーゲンには「Gly-Xaa-Yaa」リピート(XaaおよびYaaは同一または異なる任意のアミノ酸を示す)が存在し、このリピート領域で2つのα1鎖と1つのα2鎖が3重らせん構造を形成するという特徴を持つ。

Gly-Xaa-YaaリピートのGly(グリシン)の変異は、ヘテロトリマー形成の異常を引き起こすことがよく知られており、2つの変異もこのGlyの変異で、α1α1α2鎖の形成異常を引き起こすことが予想されていた。

2名のうちの1名は胎児期に脳出血を認めた孤発例であり、COL4A2変異は新生突然変異である。もう一方は家族例であり、孔脳症の患児、左上肢の軽微な単麻痺を呈する母親、先天性の片麻痺を呈する母方の伯父、明らかな臨床所見を認めない母方祖父にCOL4A2変異を認めた。

頭部MRI画像では片側性あるいは両側性の孔脳症が認められ、その程度も様々であることを確認。このことから、COL4A2変異は片側性から両側性まで、また胎児期の脳出血による脳性麻痺から左上肢の軽微な単麻痺や無症候性のキャリアまで、幅広い表現型を引き起こすと考えられたというわけだ(画像1・2)。

画像1。(A)患者1および(B)患者2の家系図。黒塗りは先天性片麻痺を有することを示し、灰色は画像上異常が認められたことを表す。患児を矢印で示す。変異塩基を赤で示している。患者1の変異は、左上肢の軽微な単麻痺を呈する母親、先天性の片麻痺を呈する母方の伯父、明らかな臨床所見を認めない母方祖父で認められた。患者2の変異は両親には認められず、新生突然変異であった

画像2。患者1とその母親のT2強調MRI横断像(左、真ん中)と患者2のCT画像(右)。右側脳室の拡大(左、真ん中)と両側脳室の拡大(右)が認められた

今回の成果は孔脳症の新たな原因遺伝子を明らかにしたばかりでなく、脳性麻痺の背景に遺伝的素因が存在することを示した。また、COL4A2変異が胎児期から成人期における脳血管障害のリスクになることを示唆する結果でもある。研究グループでは、今後、今回の成果を基にした、COL4A2変異が見つかった人の脳出血予防法などの、変異に基づいた治療・管理法の確立が期待されるとしている。