国立天文台およびトロント大学、ダブリン高等研究所、チューリッヒ工科大学の研究者たちからなる国際研究チームは、2つの若い星団において、約30個の新しい褐色矮星を発見したことを発表した。同成果はハワイのすばる望遠鏡とチリのパラナル天文台に建設された超大型望遠鏡VLT(Very Large Telescope)を用いて行われ、星団ごとに天文学と天体物理学を扱う学術雑誌「The Astrophysical Journal」に2編の論文として掲載されるほか、ドイツの国際研究会で発表される予定となっている。

褐色矮星は、恒星と惑星の境界に立つ、宇宙のキメラともいえる天体で、質量が軽いため、太陽のように核融合反応により輝く恒星になれないため、別名「恒星になれない星」とも呼ばれている。誕生時に高温になるため若い期間は明るく輝くが、時間とともに冷えて暗くなり、その大気は惑星の大気とそっくりになり、天文学者はほとんどの褐色矮星が、恒星と同じようにガスとちりの雲が収縮して、独立して生まれると考えてきた。

研究チームは、SONYC(Substellar Objects in Nearby Young Clusters)というプロジェクトを進めてきた。これは太陽に近い若い星団において、恒星よりも軽い天体を系統的に調べ上げようというもので、このプロジェクトの一環として、ペルセウス座の「NGC 1333」とへびつかい座「ロー星」のまわりにある若い星団について、すばる望遠鏡による観測が行われた。

これらの星団は共に年齢約100万年と若いもので、撮像観測により、赤い色を示す褐色矮星の候補天体を選び出し、すばる望遠鏡とVLTで分光観測を行った結果、NGC 1333の星団中に発見された天体は発見された複数の天体のうち最も軽く、木星質量の6倍しかなかった。重さだけで言うと巨大惑星とたいして変わらないものの、この天体は恒星の周りを回っていないことが確認されており、「このような浮遊惑星がどのようにして出来たかは大きな謎だ」とSONYC チームのアイルランド・ダブリン高等研究所のアレックス・ショルツ氏はコメントしている。

若い星団(NGC 1333)における若い褐色矮星と浮遊惑星。背景の図は、すばる望遠鏡で得られた可視光と赤外の画像を合成したもの。今回、SONYCサーベイで発見されたものが黄色の丸、以前から知られていたものは白色の丸で表されている。矢印はこの星団で最も軽い天体で、木星質量の6倍しかない浮遊惑星(提供:SONYC チーム、国立天文台すばる望遠鏡)

また、同浮遊惑星以外にも、2星団で発見された褐色矮星のいくつかが木星質量の20倍以下という軽いものであり、近年、直接撮像により恒星の伴星として発見されている巨大惑星の質量と同じ程度であることが判明。これは重さだけを考えると、普通の惑星系の惑星たちと変わりがないという。

さらに、NGC 1333の星団中の褐色矮星の数は、他の若い星団よりも多いことも観測された。一般的な若い星団では、恒星の数は褐色矮星の4倍~8倍程度だが、NGC 1333ではその比は2倍と、星団の半数が褐色矮星が占める結果となっている。こうした結果を受けて、SONYC プロジェクト全体のリーダーであるトロント大学のレイ・ジャヤワルドハナ氏は「今回の研究結果は、星の誕生現場を調べているので、木星とあまり変わらないような浮遊惑星も恒星と同じように生まれることを示唆している。別の言い方をすると、自然は惑星質量天体を作る手段を複数持っているように思える」とコメントしている。

若い星団(NGC 1333)に発見された代表的な褐色矮星のスペクトル。すばる望遠鏡のファイバー多天体分光器FMOSで取得。スペクトルは波長1670nmでピークを持つ特徴的な形を示す。ピークの両側は、褐色矮星の大気中にある水蒸気によって吸収されており、水蒸気の吸収は温度の低い天体の方が強く、絶対温度3000度から2200度に向かって徐々にスペクトルのピークが目立ってくる。SONYCサーベイは、「多くの天体の赤外スペクトルを同時に観測できる」というFMOSの特徴を活かしたものと言える(提供:SONYC チーム、国立天文台すばる望遠鏡)