Photo01:説明を行ったAvo Kanadjian氏(Vice President, Strategic and Product Marketing, Embedded Solution Group)

米Spansionは2月22日に都内で記者発表会を開き、同社のNOR型フラッシュメモリ「GL-S」シリーズの発表を行った((Photo01)。GL-Sシリーズは同社が従来発売してきた、MirrorBit NOR GLシリーズの後継製品にあたるものである。従来のGLシリーズは90nmプロセスで製造されたものであったが、今回発表されたGL-Sシリーズは65nmプロセスを利用したものとなる。

説明会ではまず同社の現状から説明が始まった。2010年第4四半期には3億3000万ドルというまずまずの売り上げであった。マーケットシェアではまず家電やゲーム機器が一番多く、また地域ではアジアパシフィックがもっとも大きいが日本も第2位である(Photo02)。

Photo02:収益という観点で言えば、非GAAPベースでの営業利益はEBITDA調整後で8840万ドルだが、米国のGAPPベースでの営業損失は140万ドル、純損失は1360万ドルなので、決して芳しいとは言いがたい。が、これも第3四半期に比べると大幅に改善はしているのだが。詳細な数字はこちら

この地域別に関しては、日本が占める割合が現在急成長しており、「次に皆様とお会いするときには30%を超えていると思う」(Kanadjian氏)との事。その原動力はやはりゲーム分野で、特に3D関連が同社におけるNOR MemoryのTechnology Driverになっていると説明した。それゆえ、日本におけるハイエンドNOR Memoryの採用量が急速に増えており、これが急成長の理由であるとしている。

そのSpansionであるが、Chapter 11からの脱却後は、他のメモリベンダと異なりもっぱら組み込み市場向けに特化する形で製品展開をすることで確実に稼ぐ、という方向に移っている(Photo03)。現在の同社は、まず組み込み向けにMirrorBitを使ったNOR製品を提供すると共に、今後はEmbedded NAND(これは後述)にも注力してゆくとか。一方WirelessはGreat China向けオンリーだが、エントリフォン向けに今後も投入してゆくとしている(Photo04)。結果として、組み込み向けでは大きなシェアを確保している、というのが同社の説明だ。

Photo03:同社の場合、現状ではGLシリーズが売り上げの半分以上を占めるとか。長期製品供給については、一部の自動車ベンダからは15年を超える供給保障が求められたりするそうで、こうしたことにあわせてファウンドリを使い、未だに5Vの製品なども継続提供しているそうである

Photo04:中国向けに関しては、MTK及びSpread One向けと提携しており、ここがエントリフォンに大きなシェアを持っているという形

このシェアというのはもちろんNOR Flashのシェアをさしているが、具体的に競合メーカーとの比較を行ったのがこちらである(Photo05)。Spansionはすでに2Gb品の提供を昨年中に開始しており、また4Gb品もリリースする予定である事を公式にコミットした。

Photo05:緑は「要求に適応する製品を提供できる」黄色は「一部の要求を満たせる製品を提供できる」赤は「要求を満たせる製品を提供できない」の意味だとか。大容量品に関しては、今のところSpansionの独壇場という説明である

ところでGL-Sシリーズの最初の製品は、(上にも書いたとおり)2010年11月に発表された2Gb品で、今回はこれを128Mb~1Gbまで展開した形になる。この製品展開の狙いに関しては、最初のターゲットは3Dアプリケーションであり、ここでは高速なランダムリード性能や、従来比で6倍となるプログラム性能が非常に重要となるため、これがNAND Flashとの大きな差別化の要因になると説明した。これに引き続き、デジタルTVや車載のダッシュボードなどの用途に向けて展開を行ってゆくという話だった(Photo06)。

Photo06:SPI版は日本のカーオーディオメーカーから要求があったとかで、今年後半に投入予定だそうである。JL-Jというのは昨年10月に投入を開始した、同時読み書き可能なNOR Flashのシリーズである

ちなみにGL-Sシリーズは高速性がその最大の特徴で、用途としては汎用となるわけであるが(Photo07)、メーカーがあえてNAND Flashを使わずにNOR Flashを使う理由として氏が紹介したのは、MFP(Multi-Function Printer)に関する話である。昨年あたりからEnergy Starを取得していない機器は特に欧州で販売が難しくなりつつあるが、このEnergy Starの要件を満たすためには、待機時にはシステムをDeep Sleepモードに入れる必要がある。その一方で、操作時には直ちに反応することが(製品要件として)求められる訳で、こうした事を実現するためには高速なFlash Memoryが必要とされる、という話であった。

Photo07:とは言ってもやはり一番高速性が求められるのは目下のところ3D対応のゲーム分野だ、という話であった

ここからは具体的に製品紹介の話に入った。GL-Sは45%の性能改善が実現しており、しかもパッケージの小型化も同時に実現している(Photo08)とする。このうち性能に関しては転送性能で98.5MB/sec、アクセスタイムで15nsという数字が示された。先の45%というのは、このNumonyxの「M29EW」との比較であるが、前世代のGLと比較しても15ns vs 25nsだから結構な速度アップということになる。またこの他の特徴として、ページリードバッファの容量増加やプログラム/イレース速度の向上とセキュリティ機能向上も盛り込まれている(Photo10)。

Photo08:何が45%なのか、というのは次のスライドで

Photo09:ちなみに2005年に同社がGLシリーズを発表した時の資料では、ランダムリードアクセスが110ns、8ワードのページバッファ経由で高速ページリードを行う場合が25nsと紹介された

Photo10:セクタ・リード・プロテクションは、「ページリードの際にパスワードを要求されるような機能」だそうで、またOTPはベンダがSignatureを書き込むための領域だとか。どちらも顧客からの要望を受けて追加したものだそうだ

こうした新機能を盛り込んだGL-Sシリーズであるが、まずパッケージやピン配置は既存のものをそのまま踏襲しており(Photo11)、また今回投入される新しいBGAについても、パッケージそのものは小型化されたが、ボール配置やボール径、パッケージ高などは互換なので、既存の設計にそのまま利用できるし、より実装の高密度を図ることもできるという説明だった(Photo12)。

Photo11:赤字の、末尾に"S"がつくのが今回のGL-Sシリーズ。56pinのTSOPと64ballのBGAの2種類のパッケージで提供される

Photo12:GL-SシリーズについてBGAパッケージは9mm×9mmのみになるとか。デザインはともかく実装の際のマウンタの互換性が気になるところだが、それは殆ど問題ないという説明だった

さて、以下質疑応答の話題などを絡めつつもう少し解説を。殆どのFlash MemoryベンダがNAND型フラッシュメモリに主軸を移行しつつあることもあり、NOR専業に近いのは同社だけということになっている。第三のメモリとしてPCM(相変化メモリ)やFeRAM/MRAM/etcを各社とも開発を進めているが、現実問題としてこれらはまだ大量出荷というフェーズになっておらず、基本的にはNORとNANDのどちらかという構図が続いている。NANDに関してはコストがどんどん下がるため、これを補うために大容量化がMLC/TLCで進んでいるが、そうすると今度は信頼性が強烈に落ちるため、ECCをはじめとする様々なエラー検出訂正メカニズムを突っ込むことになる、という感じになっている。一方、NORに関してはむしろプレイヤーが減ったために価格も安定しており、SLC NANDに比べても信頼性が高いためにECCを大量に突っ込んだりする必要もなく、結果としてシンプルな回路で済むからコストも安くなるという仕組みだ。ただしNORを必要とする用途はそう多くないから、結果的に組み込み向けに専念せざるを得ないという構図でもあって、その意味はニッチマーケットに専念して、そこで確実に稼ぐという方法論になり、今回の製品もそれに沿った展開といえるだろう。

これはエルピーダと共同開発した組み込み向けNANDについても言える。先にPhoto04で組み込み向けNANDに注力という話が合ったが、これについて氏は「Samsung Electronicsが1/2/4GbitのSLC NAND Flashを生産中止としたが、これを必要とする顧客はまだいる筈で、ここに向けて展開を行う」という説明があった。つまり他のNAND Flashベンダと真っ向勝負ではなく、あくまで組み込み向けのニッチマーケットへの専念を、NAND Flashでも行うという話で、この際にはCharge Trap型のNAND Flashが(従来のFloating Gateに比べて)高い信頼性を持つことが武器になる、という話だそうだ。ただし生産量に関しては、「現在顧客がどのくらいの分量を必要とするかのヒアリングを行っている」ということだとか。生産はエルピーダの広島工場が最初に生産を行う拠点となり、今後大きなデマンドがあるようなら別のファウンドリを使うことも検討する、という話であった。