宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月17日、金星周回軌道への投入に失敗した金星探査機「あかつき」に関して、原因の検討状況を明らかにした。姿勢が乱れたことにより逆噴射を中断したことがすでに分かっていたが、そのとき「あかつき」に何が起きたのか、いくつかの可能性が浮かび上がってきた。

JAXAの会見。中央が中村正人プロジェクトマネージャ

日本初の金星探査機「あかつき」は12月7日8時49分(日本時間)に、金星周回軌道に入るための減速を軌道制御エンジン(OME)により開始したが、噴射の152秒後から姿勢が乱れだし、元に戻せなかったことから158秒で噴射を中止した。このあたりについて、詳しくは前回のレポート記事を参照して欲しいが、燃料タンクの圧力低下が引き金になった可能性が指摘されている。

この姿勢角のグラフは前回も出ていた。探査機は最大でX軸周りに42°傾いた

今回初めて公開されたグラフ。姿勢異常が発生した瞬間の状況を詳しく見ている

JAXAは今回、これまでに得られた探査機のデータから、「故障の木解析」(FTA)と呼ばれる手法により、原因の絞り込みを行った。その結果、可能性として排除できないものが5つ残ったという。

FTAによる分析。グレーの3カ所が原因として可能性がある要因

スラスタのノズル・スロートが破損した可能性も否定できない

いずれのケースも推進系の異常であり、その中でも「燃焼ガスの噴射方向に異常が発生した」ことに原因が絞られている。推進系以外では、例えば姿勢軌道制御系の異常や大きなメテオロイドの衝突などについても検討されたが、これらが発生する可能性は極めて小さく、原因にはなり得ないと判断された。

噴射方向の異常として考えられる要因は、スラスタの破損による燃焼ガスの流路変形や、推進剤の異常燃焼など。「あかつき」はOME噴射中に、燃料タンクの圧力が低下したことが確認されている。燃料の供給量が減り、酸化剤とのバランス(混合比)が通常とは違った状態になっていたと推測され、これによって、燃焼温度が異常に高温になったり、燃焼が不安定になるなどして、上記の現象を引き起こした可能性がある。

推進系の配管系統図。燃料タンクの圧力低下は、加圧している高圧ヘリウムからの経路に問題があると考えられている

セラミック製なのは燃焼室以降だが、燃焼室の破損については可能性が否定されている。考えられているのはスロートかノズル部分

今のところ、要因として考えられる5ケースについて、JAXAは可能性の大小の評価はしておらず、今後のシミュレーションや燃焼試験などによって、原因をさらに絞り込む方針。ただし、試験の準備に数カ月かかるものもあり、調査の結果が揃うのにはまだしばらくかかる見込みだ。

6年後、「あかつき」は再び金星に接近するチャンスがあるが、周回軌道への再度の挑戦について、中村正人プロジェクトマネージャは「楽観はしていないが、決して諦める状況でもない」と意欲を見せる。「まずは、探査機の状態を確認して、どこに問題があったのか原因を究明するのが先決。その結果を踏まえて、改めて6年後の再投入を検討したい」とコメントした。