米アドビ システムズはこのほど、DTPソフト「Adobe InDesign CS5」を基盤とした、 電子書籍制作・販売を支援する製品「Adobe Digital Publishing Suite」を発表した。同社でDigital Publishing部門を統括するジェレミー・クラーク氏と、既にiPad向けにWIRED Magazine誌などを提供している米Conde Nastのスコット・ダディッチ氏のふたりに、同製品について話を伺った。

WIRED Magazineの成功から生まれた、新しい電子出版の形

米アドビ システムズでDigital Publishing部門を統括するジェレミー・クラーク氏

Adobe Digital Publishing Suiteは、InDesign CS5をベースに、インタラクティブな電子書籍の制作を支援する電子出版ソリューション。iOSと「Adobe Content Viewers for Adobe AIR」をサポートしており、iPadやSamsung Galaxy、Blackberry PlayBookといったタブレットPCを対象とした電子書籍の制作が可能だ。 制作環境以外に、コンテンツ配信管理や、アクセス解析ツールの「Adobe SiteCatalyst」によるレポーティングもサポートしている。

本製品で実現可能な電子書籍のスタイルは、米Conde Nastが既にiPad向けに提供するWIRED Magazine誌(WIRED)で見ることができる。紙の雑誌のような誌面レイアウトではあるが、iPadの縦/横ビューでレイアウトは変化し、画像のスライドショー、サウンドやビデオの再生、360度ビューやパノラマ写真、ハイパーリンク、Webページの閲覧などにも対応する。このWIREDのiPadアプリは2010年5月に配信が開始され、最初の1カ月間で10万件近くダウンロードされたという。

そのWIREDアプリの制作に携わったのが、米アドビ システムズでエクスペリエンスデザインのディレクターを務めるジェレミー・クラーク氏と、米Conde Nastのエグゼクティブディレクターであるスコット・ダディッチ氏。両氏は、電子出版の可能性を探求するため、WIREDやThe New Yorker誌をパイロット版としてDigital Publishing Suiteの開発を進めた。同ソリューションを活用すれば、 WIRED誌と同じ形式のアプリを配信できるようになるという。

米Conde Nastのスコット・ダディッチ氏

Conde Nastでは、社内でも電子出版技術を開発しており、WIREDやThe New Yorkerとは別の形式で作られたアプリも提供していた。しかし、WIREDの成功を受け、GQ誌やGlamour誌など、同社が発行する18の雑誌の電子出版化にアドビの技術を採用する。ダディッチ氏は「WIREDのプロジェクトが成功を納め、こちらのほうがよりパワフルなオーサリング環境をデザイナーに提供できるとわかりましたので、すべての雑誌にアドビの技術を採用することにしました」と語る。

紙媒体をPDFにしたデータをもとに、電子出版物を提供する出版社は多い。こういった現状についてクラーク氏は、「iPadでは拡大/縮小や画面をスクロールしながら見られるものの、あくまでも紙の副産物という扱いで、このアプローチでは、優れたユーザーエクスペリエンスは提供できないと思っています。PDF以外の手法では、誌面を縮小したビューと、抽出したテキストを組み合わせた表現もありますが、まるでWebページを見ているような感覚になってしまいます」と、電子出版物の問題点を指摘した。さらに「iPadのような端末は、これまで以上のアウトプットを必要としていると思います。これはテレビとラジオの関係に似ています。ラジオで読んでいた原稿をそのままテレビでも読めばいいのかというと、そうではありませんよね」と、新しいデバイスやメディアに向けた、新たなコンテンツ提供の必要性を語った。