映画ポスターのデザインから映像の世界に

そもそも、ソール・バスとは何者なのか。彼はAT&Tやユナイテッド航空など、様々な企業のCI(コーポレート・アイデンティティー)を手掛けているグラフィック・デザイナーだ。日本企業にも深い縁があり、ミノルタ(現コニカミノルタ)、味の素、紀文食品、ジャパンエナジーなどのロゴは、すべてバスの手によるものである。バスの転機は1954年に訪れる。バスは映画監督のオットー・プレミンジャーに『カルメン』(1954年)の宣伝ポスターのデザインを依頼され、シンボルマークを制作する。その出来の良さから、再びプレミンジャーに『黄金の腕』のポスター制作を任される。「監督が言ったんだ。『このねじれた腕の絵を動かしてみようか』と……」。この仕事を機に、ソール・バスは「映画のタイトルバックを変えた男」と呼ばれるようになる。

『ウェスト・サイド物語』では本編終了後のタイトルバックを担当し、深い余韻を残す

『グラン・プリ』では、キャストやスタッフの名を表示しながらスタート位置に着き、そのままレースが始まる本編にスムーズに移行

『ソール・バスの世界』には他にもバスの代表的な作品が収録されている。ウィットに富んだコミカルなアニメーションを駆使した『おかしなおかしなおかしな世界』(1963年)、激しくも永遠に続く波のリアルな実写映像を用いて作品性を象徴した『危険な道』(1965年)、衝撃的なラストシーンを緩和するため、映画の冒頭ではなく最後にタイトルバックを持ってきた『ウェスト・サイド物語』(1961年)、要約や雰囲気作りに止まらず物語の序章の役目を果たした『グラン・プリ』など、バス作品の軌跡と変化を本人の解説付きで楽しめる構成となっている。またDVDには1968年度アカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞した『なぜ人間は創造するのか』も同時収録。妻エレインと共同で制作した教育映画の歴史的傑作といわれる短編に、バスのクリエイティブなエッセンスが凝縮されている。

ソール・バスのスタイリッシュな映像世界が、たっぷりと堪能できる

バスの作品は、改めて「映画とはオープニングから観客をワクワクさせるもの」であることを我々に教えてくれる。貴重な映像が多数収録されたこのDVD(※未DVD化の作品のタイトルバックも複数収録)で、短時間で観客を物語の世界に誘うバスの魅力に触れて欲しい。

ソール・バスの世界
発売中 3,990円
発売元:IMAGICA TV
販売元:ジェネオン エンタテインメント