富山大学と藤岡エンジニアリングの両者は4月27日、軽量化が切望されるドローンや電気自動車(EV)の熱対策用ヒートシンク用素材として、実用構造材料(金属)中で最も軽量なマグネシウム合金製が開発されているが、これまでは成形性に課題があったことを受け、高熱伝導性を維持しつつ、「ダイカスト」や「チクソモールディング」といった高圧鋳造法に適した同合金を新たに開発することに成功したと共同で発表した。

  • マグネシウム合金のテストピースとチップ材

    今回開発されたマグネシウム合金のテストピースとチップ材。(出所:富山大プレスリリースPDF)

同成果は、富山大 学術研究部 都市デザイン学系の會田哲夫教授、同・附田之欣シニアアドバイザー、藤岡エンジニアリングの共同研究チームによるもの。

軽量で量産可能なヒートシンク材料が実現する?

電子機器の高性能化は、消費電力の増大に伴う発熱量の増加を招いており、近年は内部で発生した熱をいかに効率よく外部へ放出するかが、機器の信頼性を左右する重要な課題となっている。そのため、多くの機器では、PCのCPU冷却などでも利用されている、金属製の放熱部品であるヒートシンクが欠かせない。

近年、その用途が急速に拡大しているドローンにおいても熱対策は重要な課題だ。飛行中のバッテリーや基板から発せられる熱は、機器の誤動作や性能低下を招く直接的な原因となる。しかし、飛行性能を維持するためには安易に冷却部品を大型化できず、電池カバーなどの筐体部品そのものに高い放熱性を持たせ、軽量化と熱マネジメントを両立させることが不可欠となっている。

また、EVをはじめとした次世代車両のヘッドランプにおいても状況は同様だ。高輝度LEDなどの光源は熱に弱く、安定した発光を維持するためには優れた放熱構造が求められる。電費性能に直結する車体軽量化の観点から、従来のヒートシンクをより軽量で熱伝導性に優れた素材へ置換するニーズが高まっている。

こうしたヒートシンクの多くが、軽金属であるアルミニウムやマグネシウムの「高圧鋳造」により製造されている。中でもマグネシウムは、実用構造材料中で比重が1.74と最小であることで知られる。これは、放熱部剤として一般的なアルミニウム(比重2.7)と比較しても約3分の2という驚異的な軽さであり、エンジニアリング・プラスチックにも匹敵する数値だ。

また、マグネシウムは地殻中の存在割合(クラーク数)が高く、資源リスクが低い。原料コストも現在はアルミニウムと同等水準まで抑えられていることから、軽量化が至上命題となるモバイル機器やドローン、EVなどにおいて、アルミニウムに代わる次世代の軽量素材として広く普及が進んでいる。

マグネシウムの熱伝導率は、アルミニウムには及ばないが、樹脂と比較した場合は数百倍にもなる。このことから、軽量かつ高熱伝導性という観点では、マグネシウムを凌駕する材料は存在しないが、汎用のマグネシウム合金「AZ91D」(アルミニウム9%・亜鉛1%・マンガン0.2%を含有)は、汎用ダイカストアルミニウム合金「ADC12」よりも熱伝導率が低いことが知られていた。

このような状況の下、これまで高熱伝導性のマグネシウム合金がいくつか開発されてきたものの、成形性に問題があるという技術課題も存在していた。具体的には、マグネシウム-アルミニウム-カルシウム系合金は優れた高熱伝導性を示すが、特にカルシウム量が増えると高圧鋳造機の鉄系部品に溶湯が固着しやすく、連続成形性に難があったのである。

特に、スクリューの回転・前後運動が必要なチクソモールディングでは、この傾向が顕著だったとする。なおチクソモールディングとは、半溶融状態(チクソトロピー)のマグネシウム合金を射出成形できるというプロセスのことで、ペレット状にしたマグネシウム合金チップをシリンダー内で加熱し、大気に触れることなくそのまま金型内に射出成形を行う技術だ。

一方、連続成形性に難があるという問題さえ解決できれば、近年のカーボンニュートラルの観点からも優れたチクソモールディングの普及がさらに促進されることが推測された。そこで研究チームは今回、軽量性と高熱伝導性を維持したまま、成形性に優れるマグネシウム合金の開発を試みたという。

今回の研究では、カルシウム量を最適化することで、成形性の課題をクリアにしたマグネシウム合金が開発された。そして熱伝導率が調べられ、95W/(m・K)であることが判明した。JIS規格材の「AZ91D」、「AM60B」、「AJX931」と比較すると、最も優れる約80W/(m・K)のAJX93をも上回ることが確認された。

  • 熱伝導率の比較(ホットディスク法)

    熱伝導率の比較(ホットディスク法)。JIS規格材の「AZ91D」、「AM60B」、「AJX931」と比較して、AJX931よりも約15W/(m・K)上回って最も高い数値(95W/(m・K))を示した。(出所:富山大プレスリリースPDF)

さらに、100分ほどの後処理を行うことで、130W/(m・K)弱まで向上させることにも成功したとする。一方、引張強さは198MPa、破断伸びは2.1%であることも確認され、引張強さでは3種類のJIS規格材のどれよりも低く、強度的には劣ることが判明。破断伸びは3番目で、AJX931よりも上だった。また、塩水噴霧試験においては最も優れたレーティングナンバーが示されたとしている。

  • 開発合金の後処理追加による熱伝導率変化

    開発合金の後処理追加による熱伝導率変化。95W/(m・K)から10分ほどで100W/(m・K)以上に、100分で130W/(m・K)弱にまで向上させることに成功した。(出所:富山大プレスリリースPDF)

  • 室温における引張強さと破断伸びの比較

    室温における引張強さと破断伸びの比較。開発合金は引張強さでは最下位、破断伸びでは3番手と、強度は相対的に低いことがわかった。(出所:富山大プレスリリースPDF)

なお今回のマグネシウム合金は、富山大学と藤岡エンジニアリングにより共同特許が出願済みだとしている。