Nicole Turbe-Suetens氏(フランス)

ヨーロッパの先進国において、テレワークがもっとも遅れているとされているのはフランスだ。「テレワークを実施、推進することに、国の構成は大きな影響を持っている」と語るのは、フランスにおけるテレワークの一人者として今回のシンポジウムに参加した、「フランス首相に対するテレワーク推進委員会」の元委員で、現在はテレワーキングをはじめとする新しい働き方のコンサルティング会社のディスタンス・エクスパート社の常務取締役を務める、Nicole Turbe-Subetens氏だ。

日本の人口の約半分を有するフランスでは、労働者人口の1/5が公務員で、2007年10月時点での失業率は8.4%、仕事をしている高齢者の割合は35.8%と、ヨーロッパでも最も低い比率にある。また、行政区分は26の地域圏(うち22地域が本土内、4地域が海外県)の下に100の県があり、さらにその下に3万6,000の地方自治体が構成される複雑な構造をしている。

一方、テレワークの普及に密接に関係するとされるインターネットの普及は当初は遅れていた。Turbe-Subetens氏によると、「フランス人は変化が嫌いでできるだけ変化に抵抗しよとしてなかなか変えようとしない。しかし、ある時期から一気に変わるのがフランスの特徴だ」といい、現在のインターネット普及率は、46.6%が自宅にインターネット環境があり、そのうちの94%がADSL接続で、ブロードバンドは一般的に普及が進んでいる。

2004年に国家統計局が行った唯一の測定によると、フランスにおけるテレワーカー比率は7%に留まる。政府による取り組みは、94年に委員会による活動が開始され、その後は2004年に、労働組合や会社の代表が集まり、ヨーロッパのテレワークの枠組みをフランスに取り入れていこうという取り組みが始まりった。しかし、ワーキンググループの1年間の報告書としてまとめられたものは、意思決定がなく戦略が立てられなかったこともあり、具体的なアクションは起きるには至らなかった。Turbe-Subetens氏は「フランスは中央集権的な国にもかかわらず、テレワークに関しては政府は何もやっていない。企業側は新しいものとして躊躇しており、週35時間労働制があり、企業は新しい法律に対してプロセスを再検討する時間がない」と、フランスでテレワークが進まない理由を分析する。

また、ヨーロッパの中でも硬直的で厳格な制度と言われるフランスの労働法は、古い法律が削除されないまま、改正に重なる改正で肥大化し、企業の人事担当者もわからなくなっている現状もあるという。現在の労働法では、失業者対策で労働時間の週35時間制が導入されているが、Turbe-Subetens氏は「残業を減らすことで企業が人を雇えるようにということで週35時間制が導入されたが、うまくいかなかった。法改正は仕事のやり方を変えようといういいチャンスだったのに、政府が実施日を強制的に決めたことで、テレワークが成熟していないレベルでトピックを立ててしまい、硬直してしまった」と、当時の状況を振り返った。

しかしながら、フランスにおける組合側は概ねテレワークを支持しているという。ところが、"モビリティ"の定義が曖昧で、どう法律でカバーすべきかがフランスにおけるテレワークの課題のようだ。Turbe-Subetens氏によると、実際に非公式なテレワークも多いといい、「企業はテレワーカーの定義、目標、設定しないとトラブルになる」と、現在の問題点を指摘した。