ドイツきっての経営者の辞任

Heinrich von Pierer氏

終わりの見えない汚職調査が続く中、4月20日、ついに同社会長、Heinrich von Pierer氏が辞任の意向を明らかにした。同氏はSiemensに38年勤め上げた人物で、1992年から2005年まではCEOとして同社を率いた。1990年代に着手した改革計画が評価され、欧州ビジネス界では有名な存在で、シュレーダー前大統領、メンケル大統領と、ドイツの大統領に経済政策をアドバイスする立場にもあった人物だ。

だが、事態はそれだけでは収まらなかった。その翌週の4月25日、今度は現CEOのKlaus Kleinfeld氏が監査役会に対し、辞任を表明した。この日、監査役会は同氏の任期が9月末で終了するにあたり、再任の可否を決定することになっていたが、Kleinfeld氏は監査役会の決定を待たずに辞任の意を発表したことになる。

von PiererとKleinfeldの両氏はともに、汚職・不正事件とは無関係であることを強調しており、辞任の理由を、一連の汚職スキャンダルで傷ついたSiemensのイメージ改善のためとしている。

汚職構造をうんだ業務改革

今回の汚職スキャンダルについて、ドイツの経済誌『Der Spiegel』は、同社が1980年代終わりに着手した大規模なリストラが裏目に出たと分析している。同誌によると、このリストラでSiemensは、事業部単位で収益性を確保するよう各事業部に独立性を持たせた。この結果、事業部トップの責任と権限は大きくなり、高い業績目標に見合う結果を出すというプレッシャーから、今回のような贈賄行為を事業部単位で行うようになったというのが同誌の見解だ。同誌では、今回の贈賄のような不正行為はSiemensにとって決して珍しいものではない、としている。

そのような会社の体質を変えようとしていたのが、辞任するKleinfeld氏だ。米国支社のトップを務めた後、2005年にCEOに就任した同氏は、前任者von Pierer氏時代に出来上がった汚職体質を変えようと根本的な改革に取り組もうとしており、辞任はその矢先の出来事だった。Siemensが外部の汚職対策専門家や法律事務所を迎え入れて行っていた内部調査を率いていたのも、同氏だった。

49歳のKleinfeld氏は、不振が続き会社の業績の足を引っ張っていた携帯電話事業部を台湾BenQに売却したり、Nokiaとネットワークス事業部の合弁会社を立ち上げたり、メディカル分野での買収などにより、Siemensを立て直した人物だ。実際、Siemensが4月24日に発表した最新の業績報告では、同社の第2四半期の営業利益は前年比36%増の12億5,900万ユーロとなるなど、同氏の手腕を反映する好結果となったようだ。このニュースを受け、スキャンダルにもかかわらずSiemensの株価は久しぶりに高騰した。

Klaus Kleinfeld氏

Siemensでは、9月30日にKleinfeld氏が退いた後のCEOをまだ決定していない。誰が就任するにせよ、巨大な船の舵取りは難しいものとなりそうだ。だが、トップが交代すれば汚職がなくなるというわけではない。ましてや、Siemensのようなグローバル企業では、なおさらだろう。Siemensが直面している課題は大きい。