日本製鉄は4月15日、福岡県北九州市の九州製鉄所八幡地区において、既存の高炉を200万トンクラスの電炉に置き換えるための新設工事に着工し、起工式を開催した。

製鉄プロセスにおいて脱炭素化は難しいとされてきたが、同社が掲げる「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」の一環としてこのプロジェクトを推進する。これにより、大型電炉での高級鋼一貫製造・量産システムの実現を目指す。

  • 基礎工事が進む大型電炉の建設地 奥に見えるのが既存の高炉

    基礎工事が進む大型電炉の建設地 奥に見えるのが既存の高炉

同社では2029年下期にも電炉による電磁鋼板をはじめとした高級鋼の生産を開始する予定で、併用期間を経て2030年9月をめどに従来の高炉を休止方針だ。

このプロセス転換によって、2030年の同社のCO2排出量削減目標の30%達成に大きく寄与すると同社ではみている。

なぜ高炉を電炉に置き換えるのか?背景と狙い

九州製鉄所八幡地区は、1901年に操業を開始した官営八幡製鉄所をルーツに持ち、その後日本製鉄に引き継がれ、現在の規模の製鉄所として鉄の生産が行われている。

九州製鉄所八幡地区はさらに戸畑、小倉、八幡、豊前に分かれ、今回のプロジェクトはその戸畑エリアにある高炉を電炉に置き換えるというもの。

すでに廃止された高炉跡地に新設し、当初は隣接する高炉と併用して品質確認などを進める。問題がなければ、その後高炉は休止する計画だ。

  • 建設地を上空から見たところ(提供:日本製鉄)

    建設地を上空から見たところ(提供:日本製鉄)

これまで年間生産能力で100万トンクラスの電炉は存在していたが、今回はその倍となる200万トンクラスを新造する。さらにこの規模で高級鋼を製造する試みは世界になく、実現すれば世界初になるという。

製鉄プロセスにおいて脱炭素化は難しいとされてきたが、同社が掲げる「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」の一環としてこのプロジェクトを推進する。

これにより、大型電炉での高級鋼一貫製造・量産システムの実現を目指す。

電炉で高級鋼はなぜ難しい?技術課題と挑戦

従来の高炉(転炉法)は、製造の仕組み上、高炉内で撹拌されることによって鉄の品質が均一になりやすく、高級鋼の製造に適した効率的な仕組みだ。

一方で、鉄を1トン生産するのにCO2が2トン排出されるなど、環境負荷の大きさが課題だった。

  • 現在稼働している第4高炉 将来的には休止する方針

    現在稼働している第4高炉 将来的には休止する方針

これに対して電気で鉄スクラップを溶かして生産する電炉は、CO2排出量を大幅に削減できる。

しかし電炉は高炉のような撹拌作用がないため、品質を均一に保つことや成分調整が難しいという課題があった。

加えて、スクラップに含まれる銅や錫、クロムなどの不純物を完全に除去することが難しく、高級鋼の製造が困難とされていた。

  • 大型電炉における技術的な課題

    大型電炉における技術的な課題

同社ではこうした課題の解決を図るための技術開発を進め、電炉の大型化と併せて高炉と同等の品質の高級鋼の量産を目指す考えだ。

  • こうした課題を解決するための研究開発が続けられてきた

    こうした課題を解決するための研究開発が続けられてきた

投資6300億円、敷地の5割刷新 八幡プロジェクトの規模と影響

同社では2029年下期にも電炉による電磁鋼板をはじめとした高級鋼の生産を開始する予定で、併用期間を経て2030年9月をめどに従来の高炉を休止方針だ。

このプロセス転換によって、2030年の同社のCO2排出量削減目標の30%達成に大きく寄与すると同社ではみている。

なお、同地区の高炉は年間生産能力が370万トンであるのに対して、新型電炉では年間200万トンになる。

不足分については、大分地区など他の拠点から鉄を八幡地区に持ち込み加工・製品化するなど、九州全体での一体運営によってカバーする方針。

  • 電炉転換後は、還元鉄ヤードやスクラップヤード、電力インフラ設備なども必要で、エリアの約5割が刷新される

    電炉転換後は、還元鉄ヤードやスクラップヤード、電力インフラ設備なども必要で、エリアの約5割が刷新される

今回のプロジェクトでは、電炉への転換のために戸畑エリアの敷地総面積の約5割にあたる区画が刷新される一大プロジェクトとなる。総投資額は6302億円に上る。

同社の電炉プロセスの採用では、この八幡地区の電炉1基新設に加え、瀬戸内製鉄所広畑地区の電炉1基増設、山口製鉄所の電炉1基改造・再稼働も含めて総額8687億円の投資を行う。

政府支援と雇用・価格への影響 電炉転換の現実

電炉プロセスへの転換に伴い、生産コストの上昇は避けられない。日本製鉄は、今回のプロジェクトにおいて国のGX推進法に基づく政府支援を前提としており、総投資額6302億円のうち最大1799億円の支援を活用する計画だ。同社は、設備投資に加えて原料や電力などのコスト増も見込まれることから、「民間企業単独では経済的に成り立たない」としている。

また、高炉休止に伴い直営社員約350人、協力会社約800人の雇用に影響が及ぶ見込みだが、直営社員については配置転換を含めて雇用を維持し、協力会社に対しても丁寧に対応していく方針だ。

さらに、コスト増に伴う価格転嫁も避けられないとみられる。同社は、CO2排出量削減などカーボンニュートラルへの取り組みを「環境価値」として位置づけ、その付加価値によって顧客の理解を得ていく考えだ。

同社はこうした課題を乗り越え、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、生産プロセスの転換を進めていく。

同社常務執行役員で九州製鉄所長の中田昌宏氏は、設備投資に加えて、原料や電力など大幅な生産コストの増加が見込まれており「民間企業単独では経済的に成り立たない」と話していた。

  • 九州製鉄所長の中田昌宏氏

    九州製鉄所長の中田昌宏氏

  • 着工式には福岡県の服部誠太郎知事も参列

    着工式には福岡県の服部誠太郎知事も参列

  • 地元北九州市の武内和久市長も参加した

    地元北九州市の武内和久市長も参加した

  • 日本製鉄のカーボンニュートラルビジョン2050のロードマップ

    日本製鉄のカーボンニュートラルビジョン2050のロードマップ