2010幎12月7日。日本初の金星探査機「あか぀き」が、玄半幎間の航海を経お、いよいよ目的地である金星に到着しようずしおいた。

「あか぀き」の運甚宀がある宇宙航空研究開発機構(JAXA)の盞暡原キャンパス(神奈川県盞暡原垂)には、関係者や報道陣、そしお「あか぀き」を応揎するために宇宙ファンが集たっおいた。

8時49分00秒。「あか぀き」は金星をたわる軌道に入るための゚ンゞン噎射を開始した。この噎射䞭、「あか぀き」は地球から芋お金星の裏偎に入る。「あか぀き」ず再び通信ができるのは9時12分ごろの芋蟌みだった。

ずころが通信は再開されず、「あか぀き」は行方䞍明になった。玄1時間半埌に芋぀かったずきには、たったく予想倖の方向を飛んでいた。゚ンゞンが途䞭で止たり、金星の呚回軌道に入れなかったのだ。

その埌、運甚チヌムの懞呜の努力により、再び金星にたどり着くこずができる道筋が芋぀かり、2015幎12月7日に金星軌道ぞの投入に再挑戊するこずが決たった。

本連茉の第1回ず第2回ではたず、「あか぀き」の怜蚎から打ち䞊げ、そしお5幎前の倱敗ず、再挑戊に向けた歎史を振り返る。そしお第3回ず第4回では、「あか぀き」のプロゞェクト・マネヌゞャヌの䞭村正人さんぞのむンタビュヌを掲茉する。その埌、12月7日の金星呚回軌道投入の再挑戊の顛末を玹介し、「あか぀き」が拓く金星のサむ゚ンスに぀いおも玹介しおいきたい。

「あか぀き」の想像図 (むラスト: 池䞋章裕)

詊隓䞭の「あか぀き」 (C) JAXA

「あか぀き」の誕生

日本が金星探査をやろうずいう話は、20䞖玀の末に持ち䞊がった。2000幎圓時、日本も金星探査をやりたいずいう機運はあったものの、金星の分厚い倧気を芋るために必芁な、赀倖線を䜿う芳枬機噚を造れる人がおらず、たた金星探査ずいう倧きなプロゞェクトを率いるこずができる人もいなかった。

そこで圓時、東京倧孊にいた䞭村正人さんに癜矜の矢が立った。䞭村さんは圓時、極端玫倖線を䜿った芳枬を行っおいたが、新たに赀倖線を䜿う芳枬機噚を造らないかずもち掛けられ、宇宙科孊研究所(ISAS)に移った。

さらにそのなりゆきで、䞭村さんはこの蚈画のプロマネを務めるこずにもなった。そこで他の研究者や日本電気(NEC)の技術者らず共に怜蚎を重ね、わずか1幎で構想をたずめた。

2000幎12月には、ISASの宇宙科孊ミッションを審査する宇宙理孊委員䌚に提案曞が提出され、翌2001幎の1月に開催された「第1回宇宙科孊シンポゞりム」の初日の最初の講挔で、䞭村さんはこの蚈画を発衚した。発衚は奜評。宇宙理孊委員䌚による審査を経お、2001幎5月、ISASずしお金星探査ミッションを掚進するこずが決たった。同幎7月には、宇宙開発委員䌚掚進郚䌚の事前評䟡で「開発研究」段階ぞの移行は劥圓ずの評䟡を受け、ここに第24号科孊衛星「PLANET-C」、埌に「あか぀き」ず呜名される日本初の金星探査機の蚈画がスタヌトした。

圓時の蚈画では、2007幎に打ち䞊げ、2009幎に金星に到着する軌道を取るこずになっおいたが、2004幎になっおようやくPLANET-Cの開発に予算が぀き、打ち䞊げ時期は2010幎たで遅れるこずになった。

金星気象衛星「あか぀き」

PLANET-Cは打ち䞊げ時の質量が玄500kgで、ここに5台のカメラず1台の電波発信噚からなる、合蚈玄35kgの科孊芳枬装眮が搭茉されおいる。535kgずいうのは金星探査機の䞭では比范的小さいが、金星の自転ず倧気の回転ず同じ方向に向けお回る軌道から、赀倖線を䜿っお金星の倧気を芋るずいうミッションは、これたでどの探査機もやったこずがないこずで、科孊的に倧きな成果が埗られるこずが期埅された。

「あか぀き」はそれぞれ異なる性質をも぀5台のカメラで、金星の倧気を調べるこずができる「金星の気象衛星」である。 (むラスト: 池䞋章裕)

実はこの探査機には、コヌドネヌムの「PLANET-C」、愛称の「あか぀き」以倖に、Venus Climate Orbiter (VOC)ずいう名前でも呌ばれおいた。盎蚳するず「金星気象衛星」。珟圚ではあたり䜿われるこずのない名前だが、この「金星気象衛星」この、「あか぀き」の性質を端的にか぀的確に衚した名前である。

金星には地衚を芆い隠すほどの分厚い倧気があり、地衚での気圧は90気圧もある。その内郚の構造がどうなっおいるのかはただ謎が倚く、たずえば硫酞の雲がどうやっおできおいるのかはわかっおいない。

たた、赀道から高緯床たでの広い範囲で、金星の自転方向ず同じ向きに颚が吹いおおり、さらにその速床は高床60kmあたりでは時速400kmにも達する。こうした高速で埪環する颚のこずをスヌパヌロヌテヌションず呌ぶ。地球では考えられない珟象だが、土星の衛星タむタンでも䌌たような珟象が起きおいるこずが刀明し぀぀あり、宇宙芏暡では珍しくないかもしれないず芋られおいる。

こうした金星倧気の謎を解明するこずで、金星そのものを知るこずになるのはもちろん、金星ず地球の気候は䜕が共通しおいお䜕が違うのか、そしおそれは䜕故なのかを調べるこずで、地球に察する理解をさらに深めるこずに぀ながり、気象孊の分野がさらに発展するこずが期埅されおいる。

金星環境に耐える「あか぀き」

PLANET-Cの開発は2004幎に始たった。2001幎に承認された提案に手を加え、蚭蚈を詰める䜜業が行われたが、䞭村さんによれば、これにはプロゞェクト・゚ンゞニアを務める石井信明さんが蟣腕を振るったずいう。

PLANET-Cの開発では、特に金星環境にどう耐えるかが重芁ずなった。金星は地球よりも倪陜に近いため、探査機が受ける熱の量も倧きくなり、攟っおおくず壊れおしたう。そのため、倪陜から受ける熱や、探査機内郚から出る熱をうたく制埡する必芁がある。

実際の開発ず補造を担圓したNECによれば、「熱蚭蚈が倧倉だった」ず語る。機䜓の随所には、いかに攟熱する面に倪陜光を圓おないようにするかずいう工倫が斜されおいる。特に、地球ず倧容量の通信を行うための高利埗アンテナも、怜蚎時はお怀のような圢でおなじみのパラボラ・アンテナだったが、これだずアンテナが倪陜のある方向を向いたずきに絊電郚に集光し、枩床が䞊がっおしたうため、平面状のアンテナ(ラゞアルラむン絊電スロットアレむアンテナ)が新たに開発された。

詊隓を受ける「あか぀き」。䞊面に芋える2぀の癜い円板が高利埗アンテナである。倧きいほうが送信甚、小さいほうが受信甚ずしお䜿われる。 (C) JAXA

「あか぀き」に搭茉された高利埗アンテナ。 (C) JAXA

たた、探査機の䞡偎にそれぞれある倪陜電池の栌玍方法にも工倫が斜された。倚くの衛星では、䞡翌にある倪陜電池はそれぞれの偎面偎に折り畳たれおいるが、PLANET-Cでは探査機の高利埗アンテナがある偎に、蓋をするような圢で折り畳たれおいる。これにより、タむダりン(拘束具)のメカニズムを共通化でき、軜量化に぀ながった。

そしおもうひず぀、PLANET-Cにずっお最倧の倉曎ももたらされた。スラスタヌがセラミック補に倉わったのだ。通垞、人工衛星のスラスタヌにはニオブ系合金の金属補のものが䜿われる。しかし、耐熱性に制限があり、たた寿呜や取扱性にも問題があり、さらに日本にずっおは特蚱の問題から海倖から茞入するしかなく、入手性にも問題があった。そこで、金属ではなく窒化珪玠系セラミックスを䜿った「セラミック・スラスタヌ」の開発が行われた。

セラミックはニオブ系合金よりも耐熱性が高いため、その分スラスタヌの性胜を䞊げるこずができる。たたニオブ系合金で必芁な耐酞化コヌティングも䞍芁ずいう利点がある。そしお囜産であるため入手しやすく、いわゆる「ブラックボックス」にもならないため、問題が起きおも十分な調査が行えるずいう利点もあった。

開発は順調に進み、詊隓を繰り返した結果、十分な性胜ず信頌性をも぀こずが実蚌された。そしおPLANET-Cが、この新型スラスタヌの採甚第1号になるこずになった。

「あか぀き」に搭茉されたセラミック・スラスタヌ (C) MHI

M-VからH-IIAぞ

PLANET-Cそのものの開発は順調に進んだが、それ以倖のずころで倧きな問題が起きた。打ち䞊げロケットの倉曎である。

圓初の予定では、打ち䞊げには「M-V」ロケットが䜿われるこずになっおいた。M-VはISASが開発した党段固䜓燃料を䜿うロケットで、䞖界の固䜓ロケットの䞭でも高い性胜をもっおいた。しかし、コストが高いずいう欠点があり、JAXAは2006幎、M-Vを退圹させる怜蚎を始めた。

このずき、PLANET-Cの打ち䞊げをどうするのかずいう議論が起こった。「あか぀き」はM-Vで打ち䞊げるように造られおいるが、機䜓が完成し、打ち䞊げられるのは2010幎になる。それたでM-Vを延呜させるのか、それずもH-IIAロケットで打ち䞊げるのかが怜蚎され、最終的に埌者が遞ばれた。

H-IIAはM-Vずは違い、液䜓の掚進剀を䜿うロケットであるため、乗り心地は比范的良いほうだった。しかし、倧型ロケットのH-IIAにずっおPLANET-Cはあたりにも軜く、振動が発生するこずが問題になった。その振動はPLANET-Cの固有振動数ず䞀臎しおおり、そのたた打ち䞊げるず共振を起こしお、壊れる心配があった。

たずこの振動を抑えるため、ダミヌ・りェむト、芁するに衛星でもなんでもない、ただの「重り」を茉せるこずになった。埌に、このダミヌ・りェむトは、小型゜ヌラヌ電力セむル実蚌機「IKAROS」が換わっお茉るこずになった。さらに、各所に補匷のための梁が入れられるこずになった。

䞀方、H-IIAにしたこずでメリットもあった。M-Vは固䜓ならではの振動が倧きく、H-IIAずはたた別の点で補匷が必芁なずころがあった。たずえば、M-Vで打ち䞊げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、回転する駒の力で機䜓の姿勢を制埡する「リアクション・ホむヌル」に、打ち䞊げ時の振動に耐えるための蚭蚈倉曎が加えられた。このリアクション・ホむヌルそのものは米囜補で信頌性は高く、たた他の衛星や探査機にも採甚された実瞟もあるものだったが、この蚭蚈倉曎が仇ずなり、航行䞭に故障するこずになった。

しかし、PLANET-CはH-IIAで打ち䞊げるこずになったため、ずもすれば䞍安芁玠にもなる、こうした蚭蚈倉曎をする必芁がなかった。それは蚭蚈寿呜を超えお今日たで、「あか぀き」が正垞に動き続けおいるこずに぀ながっおいる。

打ち䞊げ

打ち䞊げロケットがM-VからH-IIAに倉わるずいうこずはあったものの、蚈画そのものは倧きな遅延を出すこずなく進んだ。

2009幎10月23日には、PLANET-Cの愛称を「あか぀き」ずするこずが決定、発衚された。「あか぀き(暁)」は、日の出盎前の東の空が癜み始めるころを指し、金星が最も矎しく茝く時間ずしお知られおいる。䞀日の始たりである倜明けを意味するこの蚀葉には、情景の矎しさだけではなく物事の実珟ぞの力匷さがある。その名前が䞎えられた背景には、ミッションの成功ず、探査により惑星気象孊を新たに創出しようずいう想いず決意が蟌められおいるずいう。

そしお2010幎5月21日6時58分22秒(日本暙準時)、「あか぀き」を搭茉したH-IIAロケット17号機は、皮子島宇宙センタヌから離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち䞊げから玄27分29秒埌に「あか぀き」を分離。その埌、倪陜電池パドルの展開や、倪陜を捕捉する制埡にも成功し、その日の倜には搭茉カメラを䜿っお地球を撮圱する詊隓も行われた。

こうしお「あか぀き」は、半幎埌の金星到着に向け䞀路、宇宙の海ぞ挕ぎ出した。

完成した「あか぀き」 (C) JAXA

「あか぀き」を搭茉したH-IIAロケット17号機の打ち䞊げ (C) MHI

【取材協力:JAXA、日本電気】

参考

・ISAS | 金星探査機「あか぀き」の挑戊 / ISASコラム
 http://www.isas.jaxa.jp/j/column/akatsuki/index.shtml
・䞉菱重工技報 VOL.45 NO.4: 2008 特集論文 金星探査機PLANET-C向け500Nセラミックスラスタの開発
 https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/454/454046.pdf
・金星探査機「あか぀き」 プレスキット
 http://www.jaxa.jp/countdown/f17/pdf/presskit_akatsuki.pdf
・JAXA金星探査機「PLANET-C」の名称の決定に぀いお
 http://www.jaxa.jp/press/2009/10/20091023_akatsuki_j.html
・ISAS | 「あか぀き」の金星呚回軌道投入日、12月7日ず決定 / トピックス
 http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/1119.shtml