こんにちは。

先日、ものづくりにまったく縁が無いという方に対してCADについてのレクチャーを行いました。その際、本連載の第1回目から3回目あたりの内容をお話したのですが、いくつかのCADに関わる方の素朴な疑問をいただき、改めて私自身も「そうだよな~」と思うようなことがいくつかありました。

その中でも、3D CADベンダーで働いていた時からよく尋ねられたことが、「2D CADで作成した図面データを、『自動で』立体にできるのではないですか? 」というものです。

これ、実は、3D CADベンダーにとって永遠の課題に近いものがあります。私の知る限り、いまだ「完全な自動化」を実現している3D CADは無いです。確かに、なんとなくできそうな気がします。2D CADには立体の高さ、幅、長さと3方向の情報があり、正面や側面など各方向から見た状態の図がありますから。

しかし、実はそう簡単には上手くいきません。その大きな理由のひとつには、良くも悪くも2D図面は「正確ではない」ものがほとんどだからです。2D図面はその作図の手間を減らすため、あるいは見た目に複雑にならないようにしつつ、見た人が理解しやすいように描くさまざまなルールが存在しています。例えば、同じ形状が複数並ぶ場合はそのすべての形状を作図せず、注釈文字で表現したりします。

例1: 同じ形状が複数並ぶ場合の簡略化表現

・直径8mmの穴がトータル40個配置されている
・水平方向に15mmピッチで14個並んでおり、両端の穴位置の幅が210mmである
・垂直方向に15mmピッチで7個並んでおり、両端の穴位置の幅が105mmである

  • 同じ形状が複数並ぶ場合の簡略化表現

例2: 対称形状の場合、片側の作図を省略できる

・右側が省略されているということは、円の垂直な中心線を基準に左右対称であるという意味になる

対称形状の場合、片側の作図を省略できる

と、このように、すべての形状を作図しなくてもよいルールが多々存在します。これは2D図面が手描きであった時代の名残りですが、2D CADが完全に普及している現在も変わりなく流通している手法です。非常に単純な例でご紹介しましたが、複雑な形状の図面であるほど、このようにきちんと作図規格に則って描かれた図面自体が省略されていたりします。このような図面では、そのまま利用して立体化というのはかなり困難です。

では次に、2D図面の形状を3Dモデリングに「手作業で」利用する一例をご紹介します。これを見れば、完全に「自動化」しづらい理由もわかりやすいかと思います。

例としてこのような図面があったとします。この図を利用して、3D CAD上でモデリングをしてみます。

  • 2D図面を利用して3D CAD上でモデリング

今回はAutodesk Inventorを使用します。

手順1

3D CAD上で新規スケッチを作成して「AutoCAD図面を挿入」コマンドを実行し、対象の図面ファイルを読み込みます。

使用する2D図面がAutoCAD図面(DWGフォーマットの図面)ではない場合は、その図面ファイルをオリジナルフォーマットの2D CAD上で開いておき、使用したい図形をコピー&ペーストでスケッチ上に配置することができます(すべての2D CADが対応しているとは限りません)。

  • 3D CADに対象の図面ファイルを読み込み

手順2

図形がインポートされたことが確認できたらスケッチを終了し、「押し出し」コマンドを実行して立体にしていきます。

立体の高さ寸法を決める際には、読み込んだ図面形状の中に記載されている寸法値を利用できます。高さを示す寸法上にカーソルを合わせると、カーソルの形が手の形に変わります。この状態でクリックすると、寸法数値が高さ寸法として定義されます。既存寸法を利用するので、設計変更でスケッチ内の高さ寸法を変えた場合、「押し出し」の高さも自動で更新されます。

  • 高さを示す寸法をクリック

    高さを示す寸法をクリック。画像内左下の赤丸内を見ると、カーソルが手の形に変化しているのがわかる。

  • クリックした部分の数値が高さ寸法として定義される

    クリックした部分の数値が高さ寸法として定義される

手順3

高さの寸法が入ったら押し出しの作業を完了します。(その他の形状も基本的にこの方法で立体にすることができますが、高さ定義のために参照する寸法が無い場合は線分の長さを計測するなどして数値を入力します)

手順4

基本的にこの作業を繰り返すことになります。ただし、角の丸め(フィレット)や面取りなど、形状自体にダイレクトに意味があるものは、3D CAD上で新規にフィーチャーとして付与した方が後々の運用上、扱いやすいデータになります。

  • 基本的にこの作業を繰り返す

では、ここまで作成した3Dモデルと元の図面の上面図を比較してみます。両方同じ形状になっていますので問題ないですね(2D図面の方ではフィレットの稜線は記入していません)。

  • 3Dモデル

    3Dモデル

  • 2D図面

    2D図面

では今度は正面図で比較してみます。あれ? なんだかちょっと形状が違っていませんか? 両端の円筒と中間の直線部の接続する線の位置が異なっていますね。

  • 3Dモデル

    3Dモデル

  • 2D図面

    2D図面

また、フィレットは円筒に沿ってかかっているので正面から見ると3Dモデルの図のように見えるのですが、2D図面ではこれが表現されていません。これはつまり、2D図面の正面図が間違っているということで、明らかな矛盾が発生しています。

このように2D図面は作成者が明確な意図を持って簡略化をしている場合もありますが、矛盾となるような単なるミスも見逃されてしまう可能性があります。2D図面は作成者が完成状態を頭のなかで想像し、それを平面的に展開した図を線画で表現するので、どうしてもこのようなミスが生じてしまう可能性を秘めています。その結果、パーツの詳細形状まですべて自動で立体にするというのはなかなか困難ということになるのです。

また、いずれにしても3D化する際にはフィーチャー化していた方がその後の設計を進めるにも効果的ですので、この例のようにポイントとなる部分のみ利用するという考えで設計するのが良いでしょう。

2D図面という過去の資産はできる限り有効に使いたい…と夢は広がりがちですが、2Dと3Dは設計へのアプローチの仕方が異なるので、なかなか一筋縄ではいかないのが現状です。

ではまた次回をお楽しみに!

著者紹介

著者近影

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。