こんにちは。遅くなりましたがあけましておめでとうございます。本年も引き続きよろしくお願いいたします。

さて。今回のお題は何にしよう? とものすごく悩んだのですが、最近体験したことから派生して考えていたことをお話してみようと思います。

つい先日、某所で3D CADの教育に関わっている方々を集めたとある会合に出席させてもらいました。教育ビジネスに携わっている方から、学校の先生および学生さん(学生に向けてのトレーニングなどを行っているエキスパートの方)まで、さまざまな方々が集まっていました。

各々の立場からの活動報告を拝見していて、3D CADの裾野が広がっていることを感じました。特に学校関係です。ビジネスに直結する使用方法ではないせいか、びっくりするようなものを作ったりされているのを興味深く拝見してきました。

学校の勉強や研究では、何らかの工業製品をモデリングしたとしても、最終的に完成物を販売することはまずありません。3Dプリンタやデスクトップの切削機械などを使って試作まで行っている所はありますが、私が知る限りでは、商品化までこぎつけた例を見たことがありません。課題解決に向けた机上での検討、ロボットやミニカーなど競技のための設計がメインになっています。

若い人たちと3D CADの接点が増える状況を見ていると、いずれ学生の取り組みから商品化を行う波が来るかもしれないと感じます。そして、より一層3D CAD教育の「その先」のことについて考えるようになりました。

そこで今回は、モデリングデータを実際に製作物として完成させるにあたって、実は場合によって、加工方法に合わせてモデリング方法を考慮する必要がありますよ、というお話をしたいと思います。

実際に製作物として完成させるためには何らかの機械を使用します。使用する材料にもよりますが、ここでは一般的なもの、かつ比較しやすいものとして2種類の機械を挙げます。工作機械と3Dプリンタです。ざっくりとそれぞれの特長をまとめてみました。

3Dプリンタ

長所 :
作成する形状にほぼ制限がないので自由に形状をデザインできます。
短所 :
現在広く普及しているレベルの3Dプリンタで高い精度を出すのは難しいので、精密さを求めるものにはあまり向かない。または、追加加工をして仕上げることを考慮する必要があります。
例 :
軸を入れる穴を作りたい場合で、はめあいの具合を詳細に指定したい場合。

ちなみに精度を出すのが難しい理由は、こちらのWebページの解説がわかりやすいと思います。
  3Dプリンタの原理(個人向け)
この中で「積層ピッチより細かい形状を作ることはできません。」という記述があります。つまり精度は使用する3Dプリンタの積層ピッチに依存するということです。

工作機械

長所 :
精密な精度を出すことができます。軸と穴のはめあいの具合を詳細に指定することも可能です。
短所 :
刃物を使用して削るという方法であることから、場合によっては不可能な形状もあります。
不可能な例 :
図のように、フィレットが入っていない角がある場合です。丸めのない角を加工するのはほぼ不可能で、もしどうしても角を立たせなければならない場合は特殊な加工をする必要があります。

  • フィレットが入っていない角がある場合、加工が難しいことも

    フィレットが入っていない角がある場合、加工が難しいことも

工作機械を使用する場合は、このような機械加工の特性をある程度知識として持っておくことで、トラブルを回避することができます。この例の場合で、もし凹側のコーナーには極力丸みを付けたくないのだとしても、目立たない大きさのフィレットを付けておくだけでも違います。

このように特長は正反対です。 したがって、詳細な精度は問わないのであれば3Dプリンタでもよいですが、ある程度の精度が必要な場合は工作機械を使用した方が良いということになります。

その際、現在でもまだまだ数多く使用されている2D図面を提出して機械加工をしてもらう工程の場合、よく図面上に下図のような表記で図示を省略することがあります。

  • 例:「指示なき◯◯は◯◯とする」

    例:「指示なき◯◯は◯◯とする」

この一文を入れておくことで無理な加工をお願いすることを回避することができます。

今では設計上のあらゆる情報を3D モデルに付与することができるCADが大半ですが、2D図面は使用せずに3Dデータのみを流通させようとすると、3Dモデルは加工できる完璧なモデルにする必要があるため、このような細かなところでつまずく可能性があります。 3Dモデルのみで加工をしてもらう場合はこのような点に注意することが必要です。

すごく難しいような感じがして敬遠したくなるかもしれませんが、きちんと精度を出したいのであれば切削加工に勝るものは無いので必須です。しかし、加工が困難な形状がどのようなものか、すべてを把握するのは困難です。そこは、加工をお願いする業者さんなどに希望を伝えつつ相談することで、不本意な妥協をせずに済むと思います。

今回はCADそのものとはちょっと違うお話をしましたが、CADはあくまでも設計の意図とその情報を伝達するためのデータを作成するツールなので、データとしての見た目だけでなく、その意図をいかにスムーズに伝達できるかがポイントになります。

形状の確認ができればよい試作と、製品として流通させられるものにすることの間には大きな差があり、難しいことも多いです。しかし、ツールが身近になった今、学生時代に製品化(が可能なレベルのデータ作成)まで体験できるようになれば、未来の可能性はぐっと広がると思います。

ではまた次回をお楽しみに!

著者紹介

著者近影

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。