東北大学と東京大学(東大)、大阪大谷大学(大谷大)の3者は9月8日、母乳中の抗体(免疫グロブリン)が形質細胞(B細胞より分化)から分泌されるメカニズムを明らかにしたことを発表した。

また、母乳中の抗体産生に関わる形質細胞の大半は、乳腺から遠く離れた腸管に由来していること、母乳中の抗体が産生される際に腸管の免疫機能を高めるため、腸管内に生息する特定の腸内細菌(例:B.acidifaciens、P.buccalis)の存在が重要であることを突き止めたことも併せて発表された。

東北大大学院 農学研究科 食と農免疫国際教育研究センターの宇佐美克紀博士、東大医科学研究所(東大医科研)粘膜免疫学部門の清野宏特任教授、大阪大学 微生物病研究所の佐藤慎太郎特任准教授(大阪市立大学大学院 医学研究院・ゲノム免疫学 准教授兼任)、大谷大 薬学部の戸村道夫教授、東北大 東北メディカル・メガバンク機構の菅原準一教授、米・カリフォルニア大学デービス校のRussell C. Hovey教授、東北大大学院 農学研究科 食と農免疫国際教育研究センターの野地智法教授(東大医科研 粘膜免疫学分野 客員准教授兼任)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンスを扱ったオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

腸管に発達するリンパ組織の「パイエル板」は、腸管での免疫機能に関わり、B細胞やT細胞といったリンパ球が豊富に存在するのが特徴だが、このパイエル板を覆う上皮層に散在する「M細胞」より取り込まれた、腸内細菌などをはじめとするさまざまな異物に対する免疫応答を誘導する場として機能していることも知られている。

今回の研究では、哺育中の母体の免疫系は、このパイエル板に存在する一部のB細胞に対して乳腺への移動を指示していることが判明したという。また、その過程で、B細胞から形質細胞への分化が促され、乳腺に到着後の形質細胞から母乳中の抗体(免疫グロブリン)が産生されていることが明らかとなったという。

さらに、母乳中の抗体が産生される際にパイエル板の免疫機能が高められるためには、腸管内に生息する特定の腸内微生物の存在が重要であることも判明。実際に、抗生物質を用いて哺育期の母体の腸管内に存在する、B.acidifaciensやP.buccalisなどの微生物を殺菌したところ、母乳中の抗体量が有意に減少してしまうことが確認されたほか、そのような状態の母体に、特定した腸内微生物を経口的に投与すると、母乳中の抗体量が有意に増加することも確認されたとしている。

今回の成果を受けて研究チームでは、ヒトを含めた哺乳動物の母乳を介した免疫機能(母乳中の抗体産生)を強化するための着眼点が見出されたとしており、今後、哺育期の母体を対象としたプロバイオティクス開発などへの応用が期待されるとしている。

  • 母乳中の抗体産生メカニズム

    母乳中に抗体が産生されるメカニズムの模式図 (出所:共同プレスリリースPDF)