「船で電気を輸送。洋上風力発電の爆発的普及を実現する」という事業ミッションを掲げた、パワーエックス(PowerX)が8月18日、事業説明会を開催した。

同社は、2021年3月22日に設立されたばかりのベンチャー。CEOを務める伊藤正裕氏は2016年にZOZOテクノロジーズ(当時はスタートトゥデイ工務店)のCEOに就任した後、ZOZOのCOOを務め、同社の「ZOZOSUIT」や「ZOZOMAT」、「ZOZOGLASS」などのプロダクト開発を担当した人物だ。

  • 伊藤氏

    PowerX CEO兼代表取締役社長の伊藤正裕氏

日本政府は日本における洋上風力発電量を現在の27万kwから、2040年には4500万kwまで引き上げることを目標として掲げている。

どうやってこの発電量を上げていくのか、そこにビジネスの機会を見出し創業に至ったと伊藤氏は説明する。

同社は、“洋上風力”でつくられたクリーンな電力を搭載したバッテリーに直接蓄電し、それを運搬する船「PowerARK」の開発と、蓄電池工場「PowerMAX」の運営という2つのプロジェクトを事業の軸にしていくという。

海上でつくられた電力を、送電線や海底ケーブルを使用せず、バッテリーに直接蓄電し船によって運搬するという構想は、送電先を自由に選べることや、初期導入コストが海底ケーブルなどに比べて安いこと、災害時に強いことなどがメリットとして挙げられると、同社は説明する。

電気運搬船のイメージとして公開された、PowerARK100型船は大型系統用蓄電池を100個積載できるキャパシティを持たせる予定だという。

  • PowerArk100のイメージ

    PowerARK100のイメージ(提供:PowerX)

系統用蓄電池を1000個積載できるPowerARK1000や3000個積載できるPowerARK3000といった超大型の船の製造も想定しているという。

2025年に1号船の完成を目指しており、2020年代後半にも電気運搬船を実用化させ、展開していく構想だという。

電気運搬船事業は10年を要するプロジェクトとなるが、もう1つの事業の軸である蓄電池事業は近々にもサービスを展開していく予定とのことだ。

  • 工場

    日本国内に建設予定の電池工場「PowerMAX」(提供:PowerX)

日本国内に工場を建設し、船舶用電池、グリッド用電池、電気自動車(EV)用急速充電用電池などの製造および販売を行う方針だ。

特にEV用急速充電用電池は、EVの普及に伴い、需要が拡大していくとされる中で、同社は設置工事が不要といった特徴を持つ製品で普及を狙うという。

  • EV電池

    PowerXが製造を行う予定のEV用急速充電用電池(提供:PowerX)

2022年に工場の建設を開始し、2023年にテスト生産、2024年には本生産を開始する見通しだ。

同社の共同創設者で取締役会会長には、医師であり、バイオベンチャーの創業経験がある鍵本忠尚氏が名を連ねる。

鍵本氏は、災害時の医療現場への電力確保にも同社の事業が貢献できるのではないかと考えているという。

循環型エネルギー社会の実現だけでなく、災害が多い日本で有事の際の電力確保にも貢献すべく動き出したPowerX。今後の動向に注目だ。