米国宇宙軍とノースロップ・グラマンは2021年6月13日、宇宙軍の技術実証衛星「TacRL-2」を載せた、「ペガサス」ロケットの打ち上げに成功した。

打ち上げの指令から実際の打ち上げまではわずか21日間で、宇宙軍による衛星の打ち上げをスピーディかつ機敏に、そして柔軟に行うことを目指した「戦術即応型打ち上げ(Tactically responsive launch)」計画にとって大きな一歩となった。

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    ペガサス・ロケットを搭載したL-1011「スターゲイザー」の飛行の様子 (C) Northrop Grumman

指令からわずか21日での打ち上げ成功

戦術即応型打ち上げは、宇宙軍が進めている計画で、ロケットによる衛星の打ち上げを、これまで以上にスピードかつ敏捷に、そして柔軟に行えるようにすることで、地上や宇宙の作戦地域のダイナミックな変化に即座に対応することを目的としている。

計画は宇宙軍の宇宙・ミサイル・システム・センターが主導。また、同センターに新設された、成熟した技術とシステムを迅速に統合し、特殊な宇宙のニーズに素早く対応することを目指したスペース・サファリ・プログラム局(Space Safari Program Office)がサポートしている。

衛星を迅速に打ち上げるという計画は、かねてより米空軍などで進められていたが、今回の計画は2020年から始まっている。

実際の打ち上げは、米国の航空宇宙メーカーであるノースロップ・グラマンが担当し、同社の空中発射型の小型ロケット「ペガサス」が使われた。

今回のミッションでは、まず打ち上げ契約締結から4か月かけてロケットの組み立てや試験が行われたのち、半年間の待機準備期間内のどこかのタイミングで、宇宙軍からノースロップ・グラマンに対し、打ち上げの指令が伝えられる。このとき初めて、打ち上げる軌道などの情報が明らかにされ、衛星が引き渡される。

ノースロップ・グラマンは、待機準備期間中にいつでもロケットを打ち上げられる体制を維持し続けるとともに、この指令が下されてから数週間以内に、ロケットへの衛星の搭載、試験を行い、そして実際に打ち上げを行わなければならない。

そして、宇宙軍からの指令が伝えられてから21日後となる6月13日、ノースロップ・グラマンはペガサスの打ち上げを実施。ペガサスはL-1011型機を改造した空中発射母機「スターゲイザー」に吊るされた状態で、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から離陸。そして17時11分、太平洋の上空高度約4万ftから発射。宇宙軍の技術実証衛星「TacRL-2」を所定の軌道に投入することに成功した。

通常の衛星の打ち上げでは、契約が交わされてから、実際に打ち上げられるまでは2~5年かかるが、TacRL-2はわずか11か月で打ち上げられた。

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    打ち上げ準備中のペガサス・ロケット (C) U. S. Space Force

ジョン・W・レイモンド米宇宙軍作戦部長は「今日の打ち上げ成功は、私たちが宇宙へのアクセスにおいて、他国に対して一歩も譲らないことを明確に示すものです。宇宙・ミサイル・システム・センターに『即応性のある宇宙能力を実証せよ』と求めたのはわずか1年前のことでしたが、見事にその仕事を成し遂げてくれました」と語る。

「宇宙領域はスピードで決まります。そして、今回私たちは、勝利のために必要なスピードを実証しました。私たちは、衛星を軌道に乗せるために、『21日間の召集(21-day call-up)』を実行しました。機敏で迅速な能力開発と、必要なときに必要な場所に能力を迅速に打ち上げて軌道に投入する能力を組み合わせることで、宇宙で紛争を始めたり、宇宙に紛争を拡大したりすることで得られる利益を、敵対的な他国から奪うことができるのです」(レイモンド氏)。

また、ノースロップ・グラマンのロケット担当副社長であるリッチ・ストラカ(Rich Straka)氏は、「今回のペガサスの打ち上げは、運用上のニーズに迅速に対応するという、私たちのチームの能力を明確に示すものでした。契約締結から4か月以内にロケットの組み立て、試験を実施することができました」と語る。

なお、宇宙軍によると「このミッションは世界初の試みであり、すでにいくつかの制約や課題が明らかになっています。宇宙軍はこの情報をもとに、2022年と2023年に打ち上げを予定しているスペース・サファリ局の、今後のTacRLミッションを改善していきます」としている。

TacRL-2の開発は米空軍研究所と、ユタ州立大学からスピンオフしたスペース・ダイナミクス・ラボラトリーが担当した。衛星の姿かたちや搭載機器などの詳細は明らかにされていないが、米宇宙軍では「宇宙の運用に影響を及ぼし、それによって我が国の国防、安全性、経済、環境に影響を与える可能性のある宇宙領域に関連する、受動的または能動的なあらゆる要因を識別し、特性把握し、および理解することを目的とした、宇宙領域認識(Space Domain Awareness)衛星」であると説明している。

ペガサスは、ノースロップ・グラマンの前身のひとつであるオービタル・サイエンシズが開発したロケットで、民間企業が開発した世界初の商業用宇宙ロケットとしても知られる。ロケットは固体の3段式で、L-1011型機を改造したスターゲイザーを母機とし、高度約4万ftの上空から発射する。打ち上げ能力は地球低軌道に約500kgという性能をもつ。

ペガサスは1990年にデビューし、衛星の打ち上げは今回で45機目で、通算90機以上の衛星を低軌道に打ち上げている。

参考文献

Northrop Grumman Successfully Launches Pegasus XL Rocket for the US Space Force | Northrop Grumman
U.S. Space Force successfully launches first tactically responsive launch mission > United States Space Force > News