国立天文台、愛媛大学、東京大学、理化学研究所の4者は6月11日、アルマ望遠鏡を用いた観測により、約131億年前の宇宙に存在する超遠方銀河「HSC J124353.93+0100385」において、秒速500kmで吹き、星間物質を銀河外へと飛ばしてしまうために新たな星の形成を難しくしてしまう強烈な「銀河風」を発見したと発表した。

同成果は、国立天文台 泉拓磨特任助教(国立天文台フェロー)、同・平松正顕講師、愛媛大 宇宙進化研究センターの松岡良樹准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に6月14日付けで掲載される。

天の川銀河をはじめ、宇宙のほぼすべての銀河において、その中心部には太陽質量の数百万倍から約100億倍という大質量のブラックホールが存在している。また、どの銀河においても、「バルジ」(銀河中央の膨らんだ部分)は大質量ブラックホールよりも圧倒的に大きく、サイズ的には約10億倍にもなるが、大質量ブラックホールの質量が、バルジの質量にほぼ比例していることがわかっており、両者が何らかの物理的相互作用を及ぼしながら共に成長・進化してきたこと、つまり「共進化」してきたことが考えられるとされており、その共進化に関わっているとされるのが銀河風だという。

ブラックホールの重力は強大であるが、ブラックホールに引き寄せられたガスやダストなどの物質は、いきなり飲み込まれてしまうわけではない。まずはその周囲を巡る降着円盤に取り込まれ、この降着円盤の最も内側まで来た物質から、“少しずつ”飲み込んでいくわけと考えられている。

なぜ少しずつしか飲み込んでいかないのかというと、降着円盤からは強烈なエネルギーが発せられ、物質を円盤の外へ外へと押し出していく力が働き、なかなか事象の地平面まで到達しないからだと考えられている。

この降着円盤の物質を外へと押し出していく力はとてつもなく強大で、やがて銀河全体に吹き荒れる突風の銀河風にまで発達する。こうして、銀河全体と比較したら小さな存在でしかないはずの大質量ブラックホールが、銀河全体に巨大な影響力を及ぼすとされている。

銀河風が吹き荒れることによる銀河への最大の影響は、星を作る材料である星間ガスを銀河の外へと追い出してしまうことによる銀河の“高齢化”を招くことだという。そのため、銀河風が宇宙の歴史の中でいつ頃から吹き出したのかを知ることは重要だとされている。

そうした中、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)は、その広い視野を生かした観測で、130億年以上昔の初期宇宙に、大質量ブラックホールを有する銀河を探し続けてきた。研究チームも今回、太古の宇宙の銀河風の存在を明らかにするため、すばる望遠鏡によって発見された銀河うちの1つである「HSC J124353.93+0100385」(略称J1243+0100)を、新たにアルマ望遠鏡で観測し、同銀河に含まれる塵と炭素イオンが放つ電波を捉えることに成功したという。

  • 銀河風

    アルマ望遠鏡で観測された、すばる望遠鏡が発見した銀河「HSC J124353.93+0100385」。この銀河に含まれる静かな動きを持つガスの広がりは黄色、高速で動く銀河風の広がりは青色で表されている。銀河風は銀河の中心部分に分布しており、ここに潜む超巨大ブラックホールが駆動源であることを示しているという (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Izumi et al.(出所:国立天文台Webサイト)

遥か太古、J1243+0100の塵や炭素イオンが電波を発したときは遠赤外線であったが、宇宙膨張に伴う赤方偏移によって波長が引き伸ばされた結果、地球に届いた時点では電波となっており、赤方偏移はz=7.07で、この値を基に、宇宙論パラメータで光行距離(光が進んだ道のり)が計算された結果、131億光年と算出された。

また、電波から、銀河に含まれるガスの動きの分析も実施。その結果、銀河の回転運動に加え、毎秒500kmもの速度で移動する強力なガス流が存在することが明らかになったほか、このガスの動きにはJ1243+0100に含まれる星間ガスを押しのけ、星形成活動を停止させるのに十分なエネルギーを持っていることも判明。銀河サイズの巨大な銀河風が吹いている銀河としては、もっとも古い時代のものに位置づけられるという。

さらに、J1243+0100の中で静かな動きを持つガスの運動も測定されたとのことで、この重力的なつり合いの関係から、この銀河のバルジの質量は太陽の約300億倍と推定されたとするほか、別の方法を用いて同銀河の大質量ブラックホールの質量が計算され、バルジの1%ほど(太陽質量の約3億倍)であると見積もられたとしている。

加えて、この銀河のバルジと大質量ブラックホールの質量比は、現在の宇宙における銀河バルジ-大質量ブラックホールの質量比とほぼ一致していることが確認されたが、これについて研究チームでは、宇宙が誕生後してからまだ7億年ほどしか経っていない時代に、大質量ブラックホールと銀河の共進化がすでに起きていたことを示唆するものだとしている。

  • 銀河風

    銀河中心の大質量ブラックホールによって銀河風が吹き荒れる様子のイメージ。大質量ブラックホールから放出される莫大なエネルギーによって、星の材料である星間ガスやダストなどが吹き飛ばされている (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) (出所:愛媛大学プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは今後、すばる望遠鏡がこれまでに発見済みのJ1243+0100とほぼ同時代の銀河100個を観測する計画を立てており、数多くの銀河を観測することで、J1243+0100で見えてきた「始原的共進化」が、J1243+0100に特異のものなのか、当時の宇宙の普遍的な描像かどうかを明らかにしていくとしている。