中国国家航天局は2021年5月22日、火星探査車「祝融号」が着陸機から発進し、走行と探査活動を始めたと発表した。

今後、火星の軌道を回る周回機と連携し、火星の表面から地下の構造や特徴、水氷の分布、気候・環境などについて解き明かすことを目指す。

  • 火星

    祝融号が撮影した、火星の地表と着陸機 (C) CNSA

祝融号の走行

祝融号は、中国が開発した火星探査車で、同国初の本格的な火星探査ミッション「天問一号」の一環として行われる。

天問一号は火星のまわりを回りながら探査する「周回機」と、祝融号、そして祝融号を火星の地表へ送り届ける「着陸機」から構成されている。

3機は合体した状態で、2020年7月23日に打ち上げられ、今年2月10日に火星を回る軌道に入った。その後、周回機に搭載しているカメラやセンサーを使い、着陸予定地点である火星の北半球の中緯度地域にある「ユートピア平原(Utopia Planitia)」の地形や気候を調査。着陸に向けた準備を進めた。

  • 火星

    天問一号の想像図。中央上が周回機、右下が着陸機、中央下が探査車の祝融号 (C) CNSA / CAS via Nature Astronomy

5月14日には、周回機から着陸機と祝融号が分離。そして5月15日2時ごろ(日本時間、以下同)、着陸に成功した。一方、周回機は軌道を変え、祝融号と地球との間の通信の中継に適した軌道に乗り移った。17日には、周回機を経由して画像などのデータが送られ、19日に公開されている。

そして5月22日11時40分には、祝融号が着陸機のスロープを降り、火星の地表に到達。走行と探査活動を始めた。

祝融号の寸法は2.0m×1.65m×0.8mで、質量は240kg。電力は太陽電池でまかない、6輪の車輪で走行する。設計寿命は火星の90日、地球の92日間が予定されている。

「祝融」という名前は公募で選ばれたもので、中国の古代神話における火の神に由来している。

探査車には各種カメラのほか、地中を探索できるレーダーや、岩石の組成を分析できる顕微鏡や分光分析計、気候を観測するセンサーなどを搭載。軌道上を周回する周回機とともに、火星の地形や地質構造、内部構造の特徴、地表の土壌の特徴と水氷の分布、火星の表面物質の組成、火星大気の電離層と地表の気候・環境などを調べることを目的としている。

祝融号の成功に際し、米国航空宇宙局(NASA)のビル・ネルソン長官は「祝融号の着陸成功おめでとうございます」と祝福。

「火星探査機の国際的な科学コミュニティが成長するにつれ、米国と世界は、祝融号が火星を探査し、人類の知識を進歩させるような発見を行うことを楽しみにしています。そして、これからの探査による発見の数々が、火星に人類が降り立つのに役立つことを心から期待しています」とコメントしている。

  • 火星

    天問一号の着陸機のカメラが撮影した、祝融号と火星の地表 (C) CNSA

探査車を送り込んだのは2か国目

今回の成功で、中国は、ソビエト連邦(ソ連)、米国に続き、火星に着陸した3番目の国となった。ただし、ソ連は一度も十分な成功を収めたことがなく、成功に限定すると2番目となる。

また、祝融号が火星での走行に成功したことで、中国は米国に次いで、火星探査車の走行に成功した2番目の国となった。

火星着陸への試みはソ連が先手を打ち、1971年に「マールス2(Mars 2)」と「マールス3」を打ち上げたことに始まった。同機は周回機と着陸機からなる探査機で、それぞれ火星の軌道に入ったのち、着陸機を分離し着陸に挑んだものの、マールス2は着陸に失敗、マールス3は着陸直後に故障した。マールス3には小型の探査車も搭載されていたが、着陸機が故障したことでこちらも失敗に終わった。

その後もマールス計画の中で着陸に挑んだものの、すべて失敗しており、ソ連・ロシアの宇宙探査の歴史の中で、成功した例はない。

一方、米国は1975年に「バイキング1(Viking 1)」と「バイキング2」を相次いで打ち上げ、1976年に両機とも着陸に成功。火星に着陸機を送り込むことに成功した初の国となった。

米国はまた、1997年に「マーズ・パスファインダー(Mars Pathfinder)」を送り込み、火星探査車「ソジャーナー(Sojourner)」を走行させることに成功。火星探査車の走行に成功した初の国となった。

  • 火星

    史上初の火星探査車となった、NASAのソジャーナー (C) NASA

2004年には、2機の火星探査車「スピリット(Spirit)」と「オポチュニティ(Opportunity)」を送り込み、どちらも成功。さらに当初の設計寿命を大きく超え、どちらも約10年にわたって稼働し続けた。2008年には火星の北極に「フェニックス」という着陸機を送り込み、探査に成功している。

ただ、米国も失敗を経験しており、1999年に打ち上げた「マーズ・ポーラー・ランダー(Mars Polar Lander)」は、火星に着陸する段階で通信が途絶。着陸に失敗した。

また、欧州も2003年に「ビーグル2(Beagle 2)」という着陸機を送り込んだが、着陸に失敗。2016年には欧州とロシアが共同で開発した「スキアパレッリ」が着陸に挑んだが、失敗に終わっている。

現在、火星の地表では、祝融号のほか、米国が2012年に送り込んだ探査車「キュリオシティ(Curiosity)」と、2018年に送り込んだ着陸機「インサイト(InSight)」、そして今年2月に着陸に成功した探査車「パーサヴィアランス(Perseverance)」が活動している。

今後、2022年には、欧州とロシアが共同で着陸機「カザチョーク(Kazachok)」と、探査車「ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)」を打ち上げることを目指している。

  • 火星

    欧州とロシアが共同開発している火星探査車ロザリンド・フランクリンの想像図。2022年打ち上げ予定 (C) ESA/ATG medialab

参考文献

http://www.cnsa.gov.cn/n6759533/c6812046/content.html
http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758838/c6812019/content.html
NASA Statement on China’s Zhurong Mars Rover Photos | NASA