企業のAI活用が本格化する一方で、多くの企業が「PoC止まり」という課題に直面している。AI導入への期待は高いものの、実際の成果につながらないケースが少なくない。
こうした状況について、データ管理プラットフォームを手掛けるDenodoのアジア太平洋および日本(APJ)担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのリチャード・ジョーンズ氏は、「AIの問題ではなく、信頼できるデータにアクセスできていないことが本質的な課題」と指摘する。
同社は現在、「エージェンティックエンタープライズ」に向けた投資を加速しており、AI時代に求められる新たなデータ活用モデルを提唱している。
AI活用は“熱狂”から“現実”のフェーズへ
ジョーンズ氏は、世界全体が「エージェンティックエンタープライズ」へ向かっていると説明する。AIを単なるツールではなく、企業活動そのものを変革する存在として捉えているという。
同社は過去3〜4年にわたり大規模な投資を継続してきたが、同氏は「将来のエージェンティックエンタープライズに向け、われわれは最もインテリジェントなプラットフォームを提供する」と強調した。
一方で、AI市場は現在、「熱狂から現実へ引き戻される段階」に入っているとの見方も示した。
その背景にあるのは、多くのAIプロジェクトがPoC段階で止まり、本番運用まで到達できていない現状だ。
同氏はその要因について、「企業がAIを信頼できていないこと」にあると分析する。
同氏はMITの調査を引用し、「生成AI関連PoCの95%がROIゼロに終わっている」と述べ、AI導入の期待値が高まる一方で、成果につながらない現実が企業の“AI疲れ”を生みつつあると指摘した。
「AIの問題ではない」鍵を握る“データの信頼性”
ジョーンズ氏は、AI活用が失敗する最大の理由について、「AIが正しいデータを認識できていないため」と説明した。
AIが適切なデータへアクセスできなければ、正しい判断もできず、適切なガードレールの中で行動することもできない。
つまり問題はAIモデルそのものではなく、「AIにとって信頼できるデータ基盤が整備されていないこと」にあるというわけだ。
同氏は、信頼できるAIには3つの特性が必要だと説明した。
1つ目は「認識」。何が起きているのかを把握し、必要なインサイトを得る能力だ。2つ目は「判断」。正しい情報を基に意思決定する能力であり、そのためには正確なメタデータが重要になる。3つ目は「実行」。適切なガバナンスやセキュリティの下で行動できることだ。
同氏はメタデータの重要性について、Gartnerが提唱する「アクティブメタデータ」にも言及した。AI時代では、データそのものだけでなく、データの意味や文脈を理解する仕組みが不可欠になるという。
従来型データ活用の限界、求められる新たな運用モデル
ジョーンズ氏は、企業がこれまで進めてきたデータ活用の考え方そのものを見直す必要があるとも主張する。
これまで企業は、データレイクやレイクハウスなどへデータを集約することで課題解決を図ってきた。しかし、AI時代ではそれだけでは十分ではないという。
同氏は、「AI時代に対応した新しい運用モデルが必要になる」と説明。企業全体で、AIに適したデータアクセスやガバナンスを再設計する必要があるとの認識を示した。
こうした課題に対し、Denodoは以下の4つの領域を重視しているという。
- 統一されたセマンティクス
- ゼロコピーによるデータ活用
- セキュリティとガバナンス
- コスト最適化
同氏は「既存環境の全面リプレースを求めるものではない」とも語る。企業がすでに投資しているデータ環境を生かしながら、AI活用へつなげる考え方だという。
エージェント型AIが“新しいユーザー”になる時代へ
ジョーンズ氏は今後、エージェント型AIが企業活動に本格的に組み込まれていくと予測する。
これまで一部の専門人材しか扱えなかったデータに対し、今後はナレッジワーカーやAIエージェント自身が直接アクセスするようになるという。
その結果、「データのマーケットプレイス」のような新たな利用形態が広がり、統一プラットフォーム上でAIエージェントが活動する時代が到来するとみている。
すでに成果を上げている企業もあるという。例えば、ある企業では、約6カ月の取り組みでROI200%を達成。対話型インタフェースによりインサイト取得の時間が短縮され、当初1000人規模だった利用者は最終的に10万人規模へ拡大したそうだ。「Denodoによって、ナレッジワーカーがデータを使いこなせるようになった」(同氏)
APAC市場は“AIの実運用”が進む地域
さらに、ジョーンズ氏はAPAC市場に対する強い期待を示した。
直近24カ月でAPAC地域の顧客数は50社から110社超へ拡大しており、グローバル全体の25%をアジア市場が占めることを目標に掲げている。特に日本市場については、「最も重要な市場の一つ」と位置付けている。
また、同氏は、APACでは他地域に比べて、AIを実際の業務オペレーションへ落とし込む動きが速いとの見方も示した。
その背景については、「モダナイゼーションが一歩遅れていたことが逆にメリットになった」と分析。クラウドやレイクハウスなど新技術を見極めながら導入できたことが、柔軟な投資戦略につながったという。
最後に同氏は、日本企業に向けて「AI活用における“信頼のギャップ”に惑わされることなく、成果につなげてほしい」とメッセージを送った。

