千葉工業大学(千葉工大)は5月11日、宇宙を汚さないクリーンなロケット推進薬を搭載した新型の小型固体ロケットの打ち上げ実験を3月25日に2機のロケットで実施し、いずれも予定通りの高度に到達したことが確認されたと発表された。

同成果は、千葉工大、日油、JAXAの3者で進める高性能な小型推進系の研究開発と題した共同研究の一環として実施された。

ロケットの燃料には大別して液体と固体の2種類がある。液体燃料方式は構造が複雑で、開発や取り扱いも容易ではないが、推力の制御をしやすくロケットの誘導制御を容易に行えるというメリットがある。一方の固体燃料方式は精密な誘導制御こそ不得手とするが、構造が簡単なので信頼性が高く、開発・製作・取り扱いが容易で、同じ大きさの液体燃料ロケットよりも大きな推力を出しやすいというメリットがある。

日本の場合、2021年度に次世代ロケット「H3」を打ち上げる予定となっている基幹ロケット(Hシリーズ)には液体燃料方式が一貫して採用されてきた(補助ロケットは固体燃料)。一方、日本のロケット開発の父と呼ばれる故・糸川英夫博士によるペンシルロケットを始祖とし、初代「はやぶさ」を打ち上げた「M-V」や最新型の「イプシロン」などが採用するのが固体燃料方式だ。

固体燃料は文字通りの固体の燃料だが、近年は推力増強のために主成分として金属を含むことから金属燃料とも呼ばれている。アルミニウムを燃料に、過塩素酸アンモニウムなどの酸化剤、そして燃料も兼ねた粘結剤としてポリブタジエンなどの合成ゴムを混ぜて固めたものなどが用いられている。

金属を燃焼させると、金属酸化物などが含まれた排気ガスが大気中に放出されることになる。さらに、金属酸化物はスペースデブリとなるという点も問題となる。宇宙空間を汚染してしまうことから、現在ではISO-24113、Space debris mitigation requirementsではこうしたデブリの抑制が求めているという。

しかし金属を取り除くと、金属燃料の推力は極端に低下してしまうというデメリットが生じてしまうため、クリーンな固体燃料の開発は、難しいと考えられてきた。

そこで今回の研究開発では、燃料兼結合材として用いられる高分子材料に、高エネルギー物質である「グリシジルアジドポリマー」(Glycidyl Azide Polymer:GAP)を採用し、NASAが開発した化学平衡計算を用いて、従来の推進薬である末端水酸基ポリブタジエンゴム/過塩素酸アンモニウム推進薬(AP)から金属燃料を抜いたものとの、燃焼圧力5MPa(通常の固体ロケットで採用されている燃焼圧力)での性能比較を実施。その結果、GAP推進薬は従来推進薬よりも15%以上の性能向上が示されたという。

しかし、GAPを用いた推進薬を固体ロケットの形にして燃焼効率や推力発生効率などの性能評価を行った研究はこれまでになかったとのことで、今回の研究では、「GAP/AP推進薬」として固体ロケットの燃焼器内で燃焼させ性能評価を行う実験が複数回実施され、確実な着火と安定した燃焼の確認が行われ、その後のステップとして、実際に小型ロケットに搭載し、打ち上げ時の加速度が生じる状況でも、正常な燃焼が可能であることを確認するために2機のロケットの打ち上げが行われたという。

  • 宇宙を汚さないクリーンなロケット推進薬

    2号機の打ち上げの様子。今回の新型固体燃料を使った打ち上げ実験は、千葉市にある千葉工大の千種グラウンドで3月25日に実施された (出所:千葉工大プレスリリースPDF)

打ち上げた2機のロケットは、千葉工大 工学部機械電子創成工学科の和田研究室で設計製作された全長680mm、重さ550gの小型ロケットで、2機ともシミュレーションとほぼ一致する高度まで到達したことから、高加速度環境下においても予定通りの性能が得られることが実証されたとしている。

  • 宇宙を汚さないクリーンなロケット推進薬

    2号機のアップ。1号機と2号機は、若干全長や重量が異なっている (出所:千葉工大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは今後、宇宙空間での利用を目指し、より小型軽量化と真空環境下での着火特性を評価し、宇宙機への搭載と宇宙実証を目指す計画だとしている。

  • 宇宙を汚さないクリーンなロケット推進薬

    1号機と2号機のスペックと、予想到達高度と搭載された気圧高度計による実際の到達高度。軽量な1号機は予想到達高度を4m以上上回る113.6mまで上昇し、2号機は予想到達高度から約10m低い77.7mとなった。しかし、どちらもほぼ想定通りということで、新型固体燃料が予定通りの性能を示した形となった (出所:千葉工大プレスリリースPDF)