2019年11月22日、千葉工業大学(千葉工大)とアストロオーシャンらのチームは、今年3月に続き2回めとなる洋上プラットフォームからのハイブリッドロケット打ち上げを、千葉県御宿町の網代湾上から実施。ロケットは予定された高度に達し、パラシュート開傘と水上航行ロボットの放出に成功した。

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    2019年11月22日13時30分、御宿海岸・網代湾上より発射 (写真提供:千葉工業大学・アストロオーシャン・大林組。以下、CIT-ASTROCEAN-OBAYASHIと表記)

洋上からのロケット打ち上げ実験に成功

今回の打ち上げは、千葉工大 惑星探査研究センターと、ロケット洋上打ち上げプラットフォーム構築を目指す宇宙ベンチャー・アストロオーシャンに加え、大手ゼネコン・大林組の3者の共同研究の枠組みで実施された。ロケットは同大学工学部機械電子創成工学科3年生が実験・実習の一環として設計製作、ペイロードには水上自律航行ロボットを搭載していた。

同日13:30、洋上プラットフォームから発射されたロケットは上空でロボットを放出。放出されたロボットは着水後の上陸を目指したが、折からの強風と荒天により自律航行を断念。ロケット機体、ロボットとも漁船で回収され、実験は無事終了した。

なお射場となった御宿海岸は成田空港の進入管制区に近接している。航空当局との調整を経て、高度200mを超えないように飛翔を制御し、最終的な到達高度は168mだったことが気圧高度計から判明している。

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    海岸で風にあおられる本部テント (写真:CIT-ASTROCEAN-OBAYASHI)

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    今回の打ち上げではクラウドファンディングによる支援も行われた。写真は支援者向けのステッカー (写真:CIT-ASTROCEAN-OBAYASHI)

大幅に改良された洋上プラットフォーム

ハイブリッドロケットの"射場"となった洋上プラットフォーム「Astrocean nano 002」は、3月の打ち上げで使用された「nano 001」での課題を踏まえ多くの改良が加えられた。とくに大きな進歩が製作期間の短縮だ。建設足場の部材と浮体を組み合わせた「nano 001」では、製作に約1週間を要したが、今回はそれがわずか1日に短縮されている

また筆者は3月の打ち上げでnano 001に搭乗し発射準備作業を取材している。海の男たちは「穏やかな日だ」と言っていたが、波に揺られ船酔いがエスカレートし、ほとんどの時間を床に横たわって過ごした。上空に撮影用のドローンが来たときだけカメラを構え撮っているフリをした(撮りもしたが)。

海に慣れていてもいなくても、洋上の揺動はヒトの体力を奪い、集中力を削っていく。そんな中で確実な発射を行うには、なるべく短時間で作業を終えられるような、設備の工夫や工程の改善が欠かせない。今回の「nano 002」では製作期間の短縮とともに、岸壁や海上での作業効率を上げる工夫も加えられたことで、定点への係留などの作業時間も大幅に短縮された。

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    浮き桟橋などに使われる50cm角のフロートを8×8で1モジュールとし、それらを8モジュール組み合わせて洋上プラットフォームの基本構造とした (写真:CIT-ASTROCEAN-OBAYASHI)

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    プラットフォーム上での作業性も格段に向上 (写真:CIT-ASTROCEAN-OBAYASHI)

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    電動ウインチをフレームに固定する、アストロオーシャンCEOの森琢磨氏 (写真:CIT-ASTROCEAN-OBAYASHI)

大林組の参加でさらなる進化に期待

また、次回以降の打ち上げに向けたチャレンジも進んでいる。今回から共同研究のメンバーとして加わった大林組は「サクションアンカー」と呼ばれる浮体係留手法の実験を行った。サクション(吸引)という名の通りこのアンカーは、(1)コップ状の部材を海底に伏せて接地させ、(2)内部の海水を吸引することで、(3)コップそのものを海底に潜り込ませ固定する、というもの。今後これが機能すれば、係留作業にかかる時間のさらなる短縮が期待できる。

打ち上げ実験を指揮した千葉工業大学の和田豊准教授は、2度の成功実績を踏まえ、洋上プラットフォームからの打ち上げについて期待を込めて以下のように語った。

「これまで学生ロケットは、秋田・能代や和歌山、あるいは伊豆大島など限られた場所でしか打ち上げることができませんでした。高度200mとはいえ、400m四方になにもない場所を探すのは陸上では大変ですが、海上ならばかなりそれが容易になります。

また、打ち上げに関わる学生たちからすれば、直前まで手を加えられる陸上作業と違って、洋上打ち上げでは、港を離れてしまえばできることが限られてしまいます。締切りが早まる緊張感の中、事前準備の量と質が問われる、厳しい学びの場となるわけです。

地元の御宿岩和田漁業共同組合の理解と協力のおかげで、単に打ち上げの成功だけでなく、このような打ち上げ手法が有効であることも実証でき、たいへん意義のあることと思っています。

この成功を踏まえ、今後は湖沼など内水面からの打ち上げや、係留を必要としない曳航しながらの打ち上げ、あるいは複数機の連続打ち上げなどの検討も可能になったと思っています」

アストロオーシャンの次なる野望は?

アストロオーシャンCEOの森琢磨氏は、打ち上げから2日後の11月25日に東京・日本橋で行われた、政府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2019」に昨年度の最優秀賞受賞者として参加。トークショーに登壇し、2度の打ち上げ成功を含むこの1年の活動を報告、荒天下での打ち上げ映像を紹介すると会場では歓声がわいた。さらに「多国籍のメンバーが打ち上げに取り組む機会を提供したい」として、タイでの洋上打ち上げや、台船を使った洋上プラットフォーム「Astorocean mini」の計画を紹介し拍手を浴びた。

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    「S-Boosterの賞金1050万円は、すぐに使い切った」と豪気に語るアストロオーシャンの森氏 (撮影:喜多充成)

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    御宿での2度の打ち上げを映像で報告 (撮影:喜多充成)

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    来年のタイでの打ち上げやプラットフォーム大型化など、将来構想を語った (撮影:喜多充成)

イベントの公式サイト「S-Booster 2019最終選抜会」およびYoutubeのJAXAチャンネルで当日の模様が視聴可能

高校生が作ったロケットの打ち上げにも挑戦

実は11月23-24日にも打ち上げウインドウが設定されていたが、悪天候と海況悪化で打ち上げが見送られた。予定されていたのは高校生3チーム(各8名)のロケットだ。

千葉工大のプロジェクト「ロケットガール&ボーイ養成講座」に応募した約50名から選ばれたメンバーが、複数回のセミナーと合宿を経て、それぞれのミッションを企画し製作したものだった。和田准教授ら関係者は「年度中の再チャレンジをめざしたい」としている。引き続きフォローしていきたい。

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  • 打ち上げを予定していた高校生ロケット3チームのメンバーと機体。年度内の再挑戦を期す (写真:CIT-ASTROCEAN-OBAYASHI)

著者プロフィール

喜多充成(きた・みつなり)
週刊誌のニュースから子ども向けの科学系Webサイトまで幅広く手がける科学技術ライター。
産業技術や先端技術・宇宙開発についての知識をバックグラウンドとし、難解なテーマを面白く解きほぐして伝えることに情熱を燃やす。
また、宇宙航空研究開発機構機関誌「JAXA's」編集委員も務める(2009-2014)。

共著書に『私たちの「はやぶさ」その時管制室で、彼らは何を思い、どう動いたか』(毎日新聞社)ほか。