順天堂大学は2月22日、正常体重の日本人男性約100名を対象に、全身の代謝状態や脂肪分布に関する網羅的な検査を実施した結果、脂肪組織の「質」の指標となる「脂肪貯蔵機能」や「アディポネクチン濃度」の低さが、インスリン抵抗性、高中性脂肪血症、肝脂肪蓄積などの代謝異常の本質的な原因であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、順天堂大大学院 医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史先任准教授、同・河盛隆造特任教授、同・綿田裕孝教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載された。

人の体では、脂肪は主に中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織に蓄えられている。しかし、主に空腹時などでは脂肪をエネルギーとして利用するために脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸となって放出される。脂肪組織はそのように、エネルギーのタンクとしての役割を持つ一方で、「アディポネクチン」という脂肪燃焼を促進するホルモンの分泌も行っていることが近年明らかとなってきた。

アディポネクチンが肝臓や骨格筋に存在する受容体に結合し、各臓器の脂質の燃焼を促進することで、インスリン抵抗性が改善されることがわかっている。またアディポネクチンは、肥満に伴ってその血中濃度が低下することが知られている。

しかし、肥満者では脂肪組織の機能の低下が生じ、それが代謝異常を引き起こすと考えられている。例えば、肥満すると脂肪組織の「脂肪貯蔵機能」が低下し、脂質が遊離脂肪酸として体中にあふれ出す。それに伴い、アディポネクチンの分泌量も低下し、その血中濃度が低下してしまう。これらの機能低下により、肝臓や骨格筋に脂肪が蓄積し、生活習慣病である糖尿病やメタボリックシンドロームの根源であるインスリン抵抗性が引き起こされると考えられている。

一方、日本人を含めたアジア人は正常体重(体格指数(BMI)が25kg/m2未満)であるにもかかわらず、生活習慣病になってしまう人が多い。この原因として、アジア人では脂肪組織の「質」である脂肪貯蔵機能とアディポネクチン濃度の低下が遺伝的に生じやすいことが示唆されている。

しかしながら、これらの脂肪組織の「質」の低下が、どのように代謝異常と関連しているかはよくわかっていない。そこで研究チームは今回、正常体重の日本人における脂肪組織の質の低下と代謝異常が、どのように関連するのかを解明することを目指して調査を実施したのである。

今回の研究においては、BMIが正常範囲内(21~25kg/m2)の日本人男性(94名)を対象に、脂肪組織インスリン感受性と血中アディポネクチン濃度のふたつを指標とし、脂肪組織の質の評価が行われた。

前者の測定には、「2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法」という1人当たり10時間以上要する特別な検査法が用いられた。この検査法を用いた正常体重の男性が対象の100人規模の調査は、世界でも前例がないという。測定後、脂肪組織インスリン感受性と血中アディポネクチン値の高い・低いの組み合わせで4群に分けて代謝的特徴の比較が実施された。そして、以下のような結果が得られたという。

  • 脂肪

    各群における骨格筋インスリン感受性と血中の中性脂肪。対象者を「脂肪貯蔵機能」の指標となる脂肪組織インスリン感受性と血中アディポネクチン濃度のそれぞれの中央値を用いて、脂肪組織インスリン感受性と血中アディポネクチン濃度の高低で4群(1~4)に分けて、骨格筋インスリン感受性と血中の中性脂肪値の比較が実施された。すると、脂肪組織インスリン感受性が高い2群(1、2)ではアディポネクチンの高低によらず代謝異常を認められなかった。脂肪組織インスリン感受性が低い群(3、4)ではアディポネクチンが高くてもインスリン感受性低下、中性脂肪値の上昇、肝脂肪蓄積といった軽度の代謝異常が認められた。さらにアディポネクチンが低い群(4)では、それらの代謝異常がより顕著になり、善玉コレステロール(HDLコレステロール)の低下も生じることが確認された (出所:順天堂大学Webサイト)

  • 脂肪組織インスリン感受性が高い2群(1、2):アディポネクチンの高低によらず代謝異常は認められなかった
  • 脂肪組織インスリン感受性が低い群(3):アディポネクチンが高くてもインスリン感受性低下、中性脂肪値の上昇、肝脂肪蓄積といった軽度の代謝異常が認められた
  • アディポネクチンが低い群(4):代謝異常がより顕著になり、さらに善玉コレステロール(HDLコレステロール)の低下も生じる

以上の結果から、正常体重の日本人男性において、脂肪貯蔵機能の低下が代謝異常の本質的な原因であること、さらにアディポネクチン濃度の低下があると、その程度がより顕著になることが明らかとなった。

日本国内では特定健診(メタボ健診)などで内臓脂肪の蓄積(男性でウエストサイズが85cm以上、女性で90cm以上が目安)に着目した介入が進められ、主に脂肪の「量」にフォーカスを当てた生活習慣病の予防対策が行われている。しかし今回、太っていなくても代謝異常を発症しやすい日本人にとって、脂肪組織の「質」、特に「脂肪貯蔵機能」に着目した予防や治療の必要性が示唆されたことで、今後の生活習慣病予防への応用が期待されるとした。

また、中性脂肪が高い、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が低い、肝脂肪が多い、などといった臨床データにより、正常体重者における脂肪組織の「質」の低下をある程度予測できる可能性があるとしている。

研究チームでは、最近になって痩せた若年女性の耐糖能異常者でも「脂肪貯蔵機能」の低下が生じていることを世界で初めて発見している。今後は、日本人における脂肪組織の「質」の低下はなぜ、どのように生じるのか、どのような介入法により改善されるのかを明らかにするべく、さらなる研究を進めていくとしている。