北海道大学(北大)は7月13日、北海道・日高山脈北部の幌尻岳(ぽろしりだけ)山麓の石灰岩地で、マメ科ゲンゲ属の新種を発見し、産地や発見者にちなんで学名「Astragalus poroshiriensis Kimura-Yokoyama & Shutoh」、和名「ポロシリオウギ」と命名して報告したことを発表した。
同成果は、北大 総合博物館ボランティアの横山(木村)耕氏、同・首藤光太郎助教の研究チームによるもの。詳細は、藻類・菌類・地衣類・コケ類を含む植物の系統学および分類学を扱う論文誌「Phytotaxa」に掲載された。
北海道の最奥地で新種植物の姿が明らかに
マメ科ゲンゲ属(Astragalus)は約3000種が存在し、世界で最も多様な維管束植物の属として知られる。同属の多くの種は非常に狭い範囲にのみ分布することが特徴で、その結果として世界各地で多様な種分化がもたらされた。特に、地中海地方から中央アジアにかけての地域では、1500種を超える高い多様性が確認されている。
その一方で、日本ではわずかに11種、極東ロシアでも27種などと多様性が限定的だ。固有種数についてもサハリン島と日本を合わせて6種と、他地域と比較して少ない。ゲンゲは別名「レンゲ」とも呼ばれ、日本人には身近な植物であると同時に、その仲間は海外においては極めて多様性に富むことを特徴とする植物である。
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日本およびサハリン島周辺に分布する、極めて狭い生息域を持つマメ科ゲンゲ属各種の分布図(図は、Kimura-Yokoyama & Shutoh 2026[発表論文]が和訳されたもの)。(出所:北大プレスリリースPDF)
研究チームは、2024年から北海道新冠郡(にいかっぷぐん)新冠町の幌尻岳周辺の石灰岩地において植物相調査を進めていた。同山は日高山脈北部に位置し、登頂の難易度が高いことから日本百名山の中でも最難関の1つとされている。今回の調査で同山麓に位置する石灰岩の露頭(断崖)に訪れた際、断崖上に見慣れないゲンゲ属の植物が生育していることを発見したという。
この植物は淡紫色の花をつけており、国内に分布する同色の花を咲かせるゲンゲ属4種とは一見して形態が異なることから、未発見の種であることがすぐに確認された。発見者である横山(木村)氏は、その日のうちに首藤助教へと連絡。同属の多様性や、石灰岩地では特有の種分化が生じやすいこと、日高山脈に多くの固有種が分布することなどを踏まえ、その場で未記載種の可能性が浮上したとする。
こうして、この植物の正体を確認するための研究がスタート。現地で未記載種の可能性が即座に疑われるほど形態的に顕著な植物が発見される例は、植物相研究が進んだ現代日本においては極めて稀だという。採取された植物の証拠標本をもとに形態の観察・計測が実施され、北大 総合博物館 陸上植物標本庫に収蔵されている標本や既存の文献、オンライン上の標本画像などを活用し、世界中のゲンゲ属Oroboidei節の種との比較が進められた。
特に、サハリン島固有の「シュミットソウ」と「スガワラオウギ」(研究過程で新種と判明し2025年に発表済み)、サハリン島西方のモネロン島固有の「ミナミシュミットソウ」、本州中部固有の「シロウマオウギ」、中国・太白山固有の「Astragalus taipaishanensis」(和名なし)の5種と形態が類似していたため、これらの種とより重点的な比較が行われた。
その結果、今回発見された植物は、既知のゲンゲ属Oroboidei節のいずれとも異なる形態を有していることが判明。特に、形態が類似する上述の5種からも、淡紫色の花を持つこと、花の萼の下部が筒状になった「萼筒(がくとう)」が長いこと、果皮の莢(さや)中に入る果実の「豆果」が無毛であること、「複葉」を構成する1枚ずつの小さな葉である「小葉」の表面が無毛であることなど、複数の独立した形質により容易に識別することが明らかにされた。
これらの結果から、今回発見された植物は未記載種であると結論付けられ、生育地および発見者に由来する学名「Astragalus poroshiriensis Kimura-Yokoyama & Shutoh」、そして生息地にちなんだ和名「ポロシリオウギ」と命名された。
日高山脈ではこれまで12種の固有種(種内分類群を除く)が知られており、これらの中で「ヒダカアザミ」以外はすべて半世紀以上前に記載されたものだった。今回のポロシリオウギは、1999年発表のヒダカアザミ以来27年ぶりの固有種となる。到達困難な場所が多く、植物相の調査が十分に進んでいるとはいえない日高山脈の植物相を理解していく上で、極めて重要な発見だという。
ポロシリオウギの種分化は、スガワラオウギと同様、この地域の石灰岩地において生じたことが推測されるとする。こうした土地では、炭酸カルシウムを主成分とする塩基性の石灰岩という特殊な生育環境に適応した「好石灰植物」の種分化がしばしば見られるからだ。
生育地が断崖上のため正確な個体数の把握は困難だが、現地で開花が確認されたのは30個体程度と極めて少数だ。生育地が奥地に位置するため、開発による消滅リスクは低いと見られるものの、今後も保全やモニタリングの検討が必要であるとしている。
両種の発見により、北海道やサハリン島周辺の局所的なエリアや石灰岩地のような特殊な環境下でも、ゲンゲ属Oroboidei節の多様な種分化が生じていたことが確認された。一部の種の現地調査が極めて困難なため、系統関係や種分化のプロセスに未解明な部分が多い。研究を進めるためには、まずどこにどのような固有種が分布・現存しているのかを地道に調査することが重要だという。今後、各地で植物相調査が進展することで、ポロシリオウギのように極めて狭い範囲にひっそりと生育する新たな固有種がさらに見つかる可能性もあるとしている。


