地球のような太陽系外惑星を探索している「ブレイクスルー・ウォッチ」の研究チームは2021年2月10日、太陽系に最も近い恒星のひとつ「ケンタウルス座α星A」に系外惑星が存在する可能性があると発表した。

この系外惑星は地球の6~7倍ほどの大きさをもち、また水が液体の状態で存在できる「ハビタブル・ゾーン」内にある可能性もあるという。今後の検証で系外惑星であることが確認されれば、将来の探査目標になるかもしれない。

研究成果をまとめた論文は、同日付け発行の論文誌『Nature Communications』に掲載された。

  • ケンタウルス座α星A

    ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したケンタウルス座α星A(左)、B(右)。明るく輝くこの星に、地球のような惑星が存在するかもしれない (C) NASA/ESA

ケンタウルス座α星Aに系外惑星が存在か?

ケンタウルス座α星Aは、ケンタウルス座で最も明るい「ケンタウルス座α星」にある恒星のひとつである。ケンタウルス座α星は太陽系に最も近い、わずか約4.37光年のところにある恒星系で、肉眼ではひとつの恒星のように見えるものの、実際にはケンタウルス座α星A、B、Cの3つの恒星からなる三重連星である。

ケンタウルス座α星Aは「リギル・ケンタウルス」、α星Bは「トリマン」とも呼ばれ、太陽によく似た恒星であるとみられている。α星Cは「プロキシマ・ケンタウリ」とも呼ばれ、A、Bとは異なり赤色矮星である。

このうち、プロキシマ・ケンタウリには少なくとも2つの惑星が存在することがわかっており、なおかつそのうちのひとつの「プロキシマ・ケンタウリb」は、「ハビタブル・ゾーン」と呼ばれる、恒星との距離や、恒星が出すエネルギーなどとの関係から、水が液体として存在できる環境になっている領域の中にあると考えられている。

一方、α星AとBには、これまで系外惑星は確認されていない。2012年に、α星Bで系外惑星を発見したと発表されたことはあったが、その後の検証で否定されている。

こうした中、地球のような太陽系外惑星を探索している天文学プログラム「ブレイクスルー・ウォッチ(Breakthrough Watch)」に参加する、国際的な天文学者チームは、系外惑星を直接画像で捉えられる、優れた感度をもつ革新的な観測技術を開発。そして、ケンタウルス座α星Aを観測したところ、そのハビタブル・ゾーン内に惑星が存在することを示唆する信号を検出することに成功したという。

これまで、ケンタウルス座α星のような、太陽系に比較的近い距離にある恒星のハビタブル・ゾーンにある系外惑星を画像で捉えることには、技術的な課題があった。研究チームはその難しさを「数光年の距離にある恒星の近くを回る、小さな惑星を写すことは、何十マイルも離れた場所にある街灯を回る蛾を見つけるようなもの」と例える。遠くの系外惑星を見つけるのも大変だが、太陽系に近いということは、それだけ恒星が明るく輝いて見え、系外惑星の検出の邪魔をすることから、近くにあるからこその、また違った難しさもある。

この問題を解決するため、ブレイクスルー・ウォッチとヨーロッパ南天天文台(ESO)は「NEAR(New-Earths in the AlphaCen Region)」と呼ばれる技術を開発した。

これは、南米チリのパラナル天文台にあるESOの超大型望遠鏡「VLT」に設置されている中赤外線装置「VISIR」を改良して取り付けられた「熱赤外コロナグラフ」を中心としたシステムで、恒星の明るい光を遮り、系外惑星を検出しやすくし、系外惑星が恒星からのエネルギーを受けて出す熱を赤外線で検出できるようにし、さらにその光の波長を正確に分析することで、天体の組成を詳細に分析することもできるようになったという。その感度は、これまでの系外惑星を撮像できるシステムに比べて桁違いに高いとしている。

NEARは2019年にファースト・ライトを迎え、観測を開始。そして今回、NEARがこれまでに撮影した100時間にわたるデータから、研究チームはケンタウルス座α星Aのハビタブル・ゾーン内を回る、地球の大きさの約5~7倍の惑星とみられる信号を発見した。現在、この候補には「C1(Candidate 1)」という符号が与えられている。

  • ケンタウルス座α星A

    NEARが撮影したケンタウルス座α星A、Bの画像。両者を比較し、光学的なゴーストなどを排除した結果、系外惑星と見られる信号が現れた (C) Breakthrough Initiatives / ESO / Univ. of Arizona Collaboration

この研究を率いた、米国アリゾナ大学のケヴィン・ワグナー(Kevin Wagner)氏は「データの中に信号を見つけたときは驚きました。今回検出された信号は、『NEARで系外惑星が写ったときにはこう見えるだろう』と想定していた、あらゆる基準を満たしています」と語る。

ただし、まだ系外惑星だと断定されたわけではなく、あくまで「候補」の段階である。また、仮に惑星があったとしても、生命が存在しているかどうかはまた別の問題である。

ワグナー氏は「もしかしたら惑星ではなく、周回している塵のようなものかもしれませんし、あるいは地上や宇宙の人工物が発する雑音が紛れ込んだのかもしれません」とし、「したがって、検証が必要です。それには時間がかかるかもしれませんし、より大きな科学コミュニティの関与と創意工夫も必要になるでしょう」と語っている。

今回の研究について、研究チームは、NEARというこれまで以上に強力で高感度な、系外惑星の撮像技術を実証できたことが大きな成果であるとしている。

チームによると、NEARを使えば地球の約3倍の大きさのハビタブル・ゾーンの惑星が検出可能であるとし、また地球のような岩石質の地球型惑星(岩石惑星)の半径は、通常地球の約1.7倍未満であることから、これからNEARによって、そうした地球のような系外惑星が次々と撮影できるようになる可能性が高いという。

ワグナー氏は「近くの恒星のハビタブル・ゾーンにある惑星を直接撮像できるNEARの新しい能力は、太陽系外惑星科学と宇宙生物学のさらなる発展を促すものです」と語る。

  • ケンタウルス座α星A

    南米チリのパラナル天文台にあるESOの超大型望遠鏡「VLT」 (C) ESO

なお、ブレイクスルー・ウォッチを運営するブレイクスルー・イニシティヴズは2016年に、別のプロジェクトとして「ブレイクスルー・スターショット(Breakthrough Starshot)」という計画を立ち上げている。これは、薄くて軽い帆を取り付けた切手サイズの超小型探査機を1000機用意し、地球から強力なレーザーを当てて加速させ、光速の約20%もの速さでケンタウルス座α星に送り込もうというものである。

研究チームは「検証の結果、今回見つかった信号が、ケンタウルス座α星Aのハビタブル・ゾーンを周回している正真正銘の惑星を示していることがわかれば、(ブレイクスルー・スターショットのような)今後の宇宙探査に大きな意味をもつことになります」と述べる。

また、ブレイクスルー・イニシティヴズの創設者である、ユーリィ・ミルナー氏は「世界が協力すれば、私たちは新しい世界を発見し、進歩を続けることができます。私たちのすぐ近くにあるハビタブル・ゾーンの系外惑星候補の発見は、私たちの好奇心に力を与え続けることでしょう」とコメントしている。

  • ケンタウルス座α星A

    ブレイクスルー・スターショットの想像図 (C) Breakthrough Initiatives

参考文献

Breakthrough Watch Enables Nearby Habitable-zone Exoplanets to be Directly Imaged - Breakthrough Initiatives
Imaging low-mass planets within the habitable zone of α Centauri | Nature Communications
Instruments - Breakthrough Initiatives
Starshot - Breakthrough Initiatives
NEAR: Low-mass Planets in α Cen with VISIR