スペインのカタルーニャ宇宙研究所などからなる国際研究チームは2018年11月14日、太陽系から約6光年離れたところにある恒星「バーナード星」に、惑星が存在する可能性があると発表した。論文は15日発行の「Nature」に掲載された。

バーナード星は、1960年代にも惑星が発見されたと話題になったものの、のちに間違いだとして否定されている。今回は50年ぶりの再発見であると同時に、惑星の成り立ちや進化の歴史の研究にもつながる発見とされる。

  • バーナード星と惑星「バーナード星b」の想像図

    バーナード星(左)と、そこを公転する惑星「バーナード星b」の想像図 (C) ESO/M. Kornmesser

バーナード星

バーナード星(Barnard's star)は、へびつかい座の方向にあり、太陽系から約6光年の距離に位置する恒星である。1916年に米国の天文学者E. E. バーナード氏によって発見されたことから、この名前が付けられた。

ケンタウルス座アルファ星(約4.3光年)に次いで、太陽系に2番目に近い恒星だが、ケンタウルス座アルファ星は3つの恒星からなる三重連星であり、単独の恒星としてはバーナード星が最も近い。

バーナード星は「赤色矮星」と呼ばれる小さな低温の星で、表面温度は約2700℃と、太陽の表面温度約6000℃と比べ半分以下しかない。また、直径も太陽の約30%、質量も約16%しかなく、明るさも0.3%で、地球から見ると9.57等星と非常に暗い星である。

また固有運動(天球上を1年間に移動する角度)は10.3秒と、夜空の中で最速であることでも知られており、その移動距離は100年間で、地球から見た月のおよそ半分にも達する。さらに1万年後には、太陽系から約3.8光年の距離まで接近すると予想されている。

バーナード星b

今回、スペインのカタルーニャ宇宙研究所のIgnasi Ribas氏を中心とする国際研究チームは、赤色矮星を回る系外惑星の発見を目指した「Red Dots」と「CARMENES」というプロジェクトの中で、バーナード星に惑星が存在することを示す証拠を発見した。

研究チームは、惑星の重力によって恒星の動きがふらつくことを、光のドップラー効果を使って観測する「視線速度法」という方法を使用。観測には欧州南天天文台(ESO)が保有する、チリのラ・シア天文台にある系外惑星探査用の装置「HARPS (High Accuracy Radial Velocity Planet Searcher:高精度視線速度系外惑星探査装置)」をはじめ、世界中にある7種類の観測装置が使用された。観測期間は20年にもわたり、771回にもおよぶ観測が行われた。研究チームはその膨大なデータを分析し、今回の発見に至った。

「バーナード星b(Barnard's Star b)」という名前が与えられたこの惑星は、質量は地球の3.2倍以上はあり、主に岩石でできた惑星だと考えられている。こうした地球の数倍サイズの岩石惑星のことを「スーパーアース(Super-Earth)」と呼び、赤色矮星にある惑星としては一般的なものと考えられている。

バーナード星から6000万kmほど離れたところを公転しており、周期は233日。6000万kmというのは、太陽と地球間の0.4倍ほどで、むしろ太陽と水星の距離に近い。しかし、バーナード星は赤色矮星なので、この惑星が受けるエネルギーは、地球が太陽から受けているエネルギーのわずか2%ほどにすぎない。そのため、表面温度は-170℃ほどの氷の世界だと考えられる。系外惑星といえば、そこに生命がいるかどうかという点が注目されがちだが、こうしたことからESOでは、「私たちが知っているような生命にとって、生きるのに適した環境ではない」としている。

  • バーナード星bの地表の想像図

    バーナード星bの地表の想像図 (C) ESO/M. Kornmesser

また、バーナード星bが公転している場所は、バーナード星の「スノー・ライン」にあたる。

スノー・ラインとは、惑星系の中で水が揮発してしまう場所と、水が氷になって残り続けることができる場所の境界のことを指し、また惑星が、地球型惑星(岩石惑星)になるか木星のように大きく重い木星型惑星になるかの境界でもあると考えられている。ちなみに太陽系では小惑星帯(アステロイド・ベルト)の位置がスノー・ラインにあたり、実際にその内側には地球や火星といった地球型惑星が、外側には木星や土星といった木星型惑星が形成されている。

また現在の理論では、スノー・ラインがスーパー・アースのような惑星を形成するための理想的な場所であると予測されており、その点からも今回発見された天体が実際に惑星であり、なおかつスーパー・アースである可能性を裏付けるものとなる。

50年ぶりの再発見

2016年には、ケンタウルス座アルファ星のひとつ「プロキシマ・ケンタウリ」に惑星が発見されており、バーナード星bは太陽系から2番目に近い系外惑星となる。

参考:「太陽系に最も近い恒星をまわる惑星発見 - 生命が生存できる環境の可能性も」

ちなみに、バーナード星に惑星を発見したという発表がなされたのは、今回が初めてではない。1960年代、米国の天文学者ピート・ファンデカンプ氏が、バーナード星の固有運動にわずかなブレがあることを見つけ、そこから木星ほどの大きさの惑星がある証拠ではないかと発表。史上初の系外惑星、それも6光年という近い場所での発見に、世界中の天文学者や天文ファンが沸き立った。

それを受け1970年代には、英国惑星間協会(BIS)が、核融合のエネルギーによって光速の12%まで加速し、バーナード星まで50年で到着できる探査機「ダイダロス」計画を研究している。

しかし、その後他の天文学者や、より優れた望遠鏡による観測では惑星は見つからず、現在ではそのブレは観測時の誤差によるもので、惑星ではなかったとされている。

今回、約50年ぶりにバーナード星に惑星が"再発見"されたが、当時ファンデカンプ氏が主張していた木星のようなガス惑星ではなく、スーパー・アースであったことから、ファンデカンプ氏の観測の正しさが裏付けられたというわけではない。

研究を主導したRibas氏は「非常に慎重な分析を行った結果、私たちは99%、惑星があることを確信しています」と述べる。

「ただ、もしかしたら恒星自身の明るさの変化を見間違えた可能性もないわけではありません。私たちは今後も観測を続け、その可能性をできる限り取り除いていきたいと思います」。

もし、今回見つかったものが本当に惑星だったなら、直接訪れることは難しいものの、現在ESOが計画中の「欧州超大型望遠鏡」や、NASAの「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」など、次世代の高性能望遠鏡を使って観測することで、大気の組成や生命の有無など、より多くのことがわかるかもしれない。

バーナード星bの地表のCGアニメ (C) ESO/M. Kornmesser

出典

Super-Earth Orbiting Barnard’s Star | ESO
A candidate super-Earth planet orbiting near the snow line of Barnard’s star | Nature
Barnard's Star
ESOblog - Searching for an Exoplanet | ESO
Discovery Alert! A New Super Earth in the Neighborhood (Six Light-Years Away) - Exoplanet Exploration: Planets Beyond our Solar System

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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