東京大学は、数μmレベルで微細加工した有機トランジスタアレイを製造し、デバイス構造と動的特性(周波数依存性)を系統的に調査した結果、有機トランジスタの高速応答特性をモデル化することに成功したと発表した。また、定式化されたモデルにしたがって設計された有機トランジスタが、世界最速クラスの遮断周波数45MHzを達成したことも同時に発表された。

同成果は、東大大学院新領域創成科学研究科質系専攻の澤田大輝 修士課程2年生、同・渡邉峻一郎 准教授(産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員)、同・竹谷純一 教授(連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター(MIRC)特任教授/産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員/物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)MANA 主任研究者(クロスアポイントメント))らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

有機半導体は、トランジスタを構成する半導体層に有機半導体単結晶を用いた素子だ。有機半導体の大きな特徴は、有機溶媒に溶かしたインクから印刷プロセスを用いて柔軟性のあるデバイスを作成できることである。

トランジスタは、決められた動作周波数に追従して常にON/OFF状態のスイッチングを行いながら論理演算を実施している。大規模な集積回路を設計する上で、各トランジスタの動的な特性をあらかじめ予想することは需要な課題だ。

しかし有機半導体トランジスタにおいては、大規模な集積回路の設計ガイドラインとなるトランジスタの動的応答モデルについては未解明だった。その理由は、遮断周波数や移動度などのデバイスパラメータとデバイスの微細度の相関が明らかになっていなかったためである。なおここでの遮断周波数とは、トランジスタは入力信号をある係数を持って増幅して出力する機能を有するが、その増幅を得られなくなる周波数を指す。

そこで研究チームは今回、その課題を解決するため、数μmレベルで微細加工した有機半導体トランジスタアレイを製造し、デバイス構造と動的特性の系統的な評価を実施した。有機半導体トランジスタの微細化度を変化させながら、遮断周波数や移動度などのデバイスパラメータを系統的に調査するためには、大面積にわたり均質で良質な薄膜を製造する必要がある。そこで、研究チームがこれまでに開発してきた大面積の有機半導体単結晶超薄膜の作成技術および微細加工技術が活用された。

  • 有機半導体

    今回作製された有機半導体トランジスタアレイの模式図と顕微鏡像 (出所:東大大学院新領域創成科学研究科Webサイト)

評価の結果、有機トランジスタの高速応答特性をモデル化することに成功。シリコン半導体で確立されていた既存のモデルに、有機トランジスタに特有の接触抵抗の効果を採り入れる新しいモデルの定式化が実現した。このモデルでは、接触抵抗の影響を考慮した上でのデバイスの微細度を表す“面積因子”を用いて、直感的に動的特性を予想することが可能だという。接触抵抗とは、金属と半導体の界面における抵抗のことだ。接触抵抗が大きくなると、トランジスタの動作周波数が低くなる。

  • 有機半導体

    実測された遮断周波数の面積因子依存性。微細化度の異なる(面積因子の異なる)すべてのトランジスタの遮断周波数がモデルから予想される理論線(赤線)上にプロットできるという (出所:東大大学院新領域創成科学研究科Webサイト)

また今回のモデルにしたがった構造を有する有機トランジスタの作製が行われ、その遮断周波数の計測も行われた。これまでの世界記録は、研究チームが2020年2月に発表に発表した38MHzだったが、今回はそれを更新し、45MHzを達成したとする。

今回のモデルは有機トランジスタのさらなる高速化・微細化における明確なガイドラインとなると同時に、動的な環境下で動作するさまざまな電子素子(増幅素子や整流素子)などの設計にも有用となることが期待されるとしている。