国立天文台とアストロバイオロジーセンターは9月3日、最近発見されたふたつの若い惑星系に対して、すばる望遠鏡の赤外線分光器(赤外線ドップラー装置)IRDを用いた分光観測を行ったところ、惑星の公転軸と恒星の自転軸がほぼ揃っていることを突き止めたと発表した。誕生から2000万年ほどの若い惑星系で横転面の情報が得られたのは世界初のことだという。

同成果は、東京工業大学、アストロバイオロジーセンター、ハワイ大学の研究者らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」と、英天文学専門誌「王立天文学会月報レターズ」に掲載された。

これまで、系外惑星の多くは主に誕生してから10億年以上経った壮年期に入った恒星の周囲で探索されてきた。壮年期の恒星は若い恒星と異なり、フレアや黒点などの表面活動が少ないため、惑星の探索を行いやすいことが主な理由だ。しかし、近年になって観測手法が向上してきたことで、誕生後間もない表面活動が活発な若い恒星の周囲でも惑星の発見が相次いでいる。

一般に惑星は、時間とともに軌道や大気成分などが変化していくことが知られている。そのため、若い惑星の場合、系内のどの位置で誕生し、どのような大気を獲得したかなどの惑星の形成に関わる原始的な情報をまだ保持していると考えられるため、惑星系の起源を探る上で重要な観測対象と考えられている。特に、惑星の公転面の傾き、つまり惑星の公転軸と恒星の自転軸のなす角度は、惑星同士の重力的な相互作用や、恒星との潮汐相互作用によって時間とともに変化することが理論から示唆されており、そのデータは重要だ。

これまで惑星の公転面の傾きが調査された星系は100個上存在するが、その大半が10億年以上の年齢の壮年期に入った惑星系を対象とした観測だった。惑星がどのような軌道で誕生したのかを探るためには、より若い惑星系を観測する必要があった。

そこで研究チームは今回、発見されて間もない若い惑星系を持つふたつの恒星、「けんびきょう座AU星」と「K2-25」に着目した。けんびきょう座AU星は「がか座β星運動星団」(年齢:約2300万年)、K2-25は「ヒアデス星団)」(年齢:約6億年)という若い星団に属している。そしてどちらの恒星も、惑星が恒星の前を横切る際に恒星の光がわずかに弱まることを利用して惑星の存在を確かめるトランジット法によって海王星サイズの惑星が公転していることが確認されている。

どちらの恒星も表面温度が低いことが特徴で、可視光線では暗く観測が難しいものの、赤外線では明るく観測しやすいという特徴を持つ。赤外線での観測は若い恒星の表面活動の影響を受けにくくなるというメリットもあり、研究チームはすばる望遠鏡に搭載されて2018年2月にファーストライトを迎えた新型の赤外線分光器IRD(InfraRed Doppler:赤外線ドップラー装置)による観測を実施することにした。

惑星が恒星の前面を通過する間に、恒星のスペクトル中を惑星の影がどのように動いていくかを、ドップラー効果を用いて調査する「ドップラー・シャドウ」という手法がある。同手法で解析した結果、どちらの惑星もその公転軸が恒星の自転軸とよく揃っていることが確認された。そして、年齢が2000万年ほどのけんびきょう座AU星の惑星については、公転面が観測された最も若い惑星となったのである。

今回の観測結果のように、若い恒星系で惑星の公転面が傾いていないという事実は、これまでの観測結果を解釈する上でも重要な意味を持つという。太陽系では、水星だけはほかの7つと比べて若干傾きが大きいが、それでもほぼ公転面は傾いていないといって差し支えない。しかし、これまで惑星の公転面の傾きが測定された系の約3分の1では、惑星の公転面が大きく傾いているという事実がある。そのため、公転面がいつ、どのようにして傾いたのかについては長らく研究者の間で議論が続いている。

今回の若いふたつの惑星の公転面が傾いていないという事実は、惑星は誕生直後から公転面が傾いているのではなく、一部の系では誕生後しばらく経ってから傾いたということを示唆しているという。ただし、工学院大学やアルマ望遠鏡(国立天文台)などが9月4日に発表したオリオン座の若い三連星「GW星」の観測結果では、三連星の公転面から大きく傾いた原子惑星系円盤(惑星のもととなると考えられている、塵とガスのリング)が発見されており、生まれたときから公転面が傾いている惑星も存在する可能性がありそうだ。

研究チームは、まだ観測データが少ないことから、今後さらに多くの若い惑星系で同様の観測を行うことで、惑星の公転面が傾いた原因や時期などを明らかにできると期待を述べている。

  • すばる望遠鏡

    惑星系の模式図。(a)は、恒星の自転軸(赤の太線)と、惑星の公転軸(緑の線)がそろっている場合。(b)は、惑星の公転軸が恒星の自転軸に対して傾いている場合。惑星系の進化理論では、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐作用によって、(b)のような公転面の傾いた状態に至ると予想されている。つまり、惑星の年齢と公転面の傾きの関係を観測でき明らかにすることは、惑星系の進化を探る上で重要な課題になっている (c) アストロバイオロジーセンター (出所:国立天文台すばる望遠鏡Webサイト)