工学院大学と国立天文台は9月4日、アルマ望遠鏡を用いた観測から、若い三連星「オリオン座GW星」の周囲に、特異で巨大な三重の塵のリングが存在していることが確認されたことを発表した。

成果は、カナダ・ビクトリア大学のジャーチン・ビー氏、同ルオビン・ドン氏、工学院大学教育推進機構の武藤恭之准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載された。

天の川銀河の恒星の過半数は、ふたつ以上の恒星が共通重心を中心にして公転する「連星系」として生まれていることが知られている。太陽も現在は単独だが、46億年前に誕生した際にはパートナーがいたという説もあり、星の形成領域で同時期に複数の恒星が誕生することから、ふたつ以上の星が連星系をなすのは至って普通のできごとのようである。

現在、4000個以上の系外惑星が発見されているが、連星の周囲を公転する惑星は、今までのところ二連星までしか見つかっていない(三連星のひとつの恒星の周囲を公転する惑星なら、地球に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリを巡るプロキシマbが2016年に発見されている)。連星系は恒星の数が増えるほど重力の影響がより複雑になるため、三連星以上の周囲では惑星が作られにくいのかもしれない。

惑星は、生まれたての恒星を取り巻く塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)の中で誕生し、成長していく。それは連星系でも同じだ。そこで国際共同研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて、地球から約1300光年の距離にある三連星のオリオン座GW星の観測を実施した。この三連星は、1天文単位(太陽~地球間、約1億5000万km)ほどの距離で共通重心を回る主星のAと第1伴星のBがあり、そこから8倍ほど離れた距離を第2伴星のCが回る。8天文単位とは、太陽系では太陽~土星が約10天文単位なので、それよりも約3億km短い距離ということになる。

観測の結果、オリオン座GW星を取り巻く原始惑星系円盤は、三連星の軌道の数倍から数十倍の直径を持つ三重のリングから作られていることが判明した。リングの半径は、内側から46天文単位、188天文単位、338天文単位。これを太陽系に置き換えると、最遠の惑星である海王星が約30天文単位で、そこから先は冥王星などを含むエッジワース・カイパーベルト天体(太陽系外縁天体)の領域となる。残りのふたつの距離までいくと、もはや目印となる天体はない。なお最も外側のリングは、これまで発見された原子惑星系円盤のうちで、最大サイズのものであるという。

また、電波強度からそれぞれのリングに含まれる塵の質量も算出された。その質量は、内側から地球質量の75倍、170倍、245倍と見積もられている。

さらに詳細な分析が実施されたところ、三重リングは中心の三連星の軌道面に対して大きく傾いていることも確認された(画像2)。特に、最も内側のリングは残るふたつのリングとは大きく異なる傾き方をしていることが判明

通常、原子惑星系円盤は、重力的に安定することから中心の恒星の赤道に沿って回るものであり、連星系の場合も公転面に沿って回る。しかし、このような特殊な傾きがあることから、コンピューターシミュレーションで分析した結果、三連星の重力だけでは最も内側のリングの大きな傾きを再現することができなかったとした。そのため、円盤内に惑星が存在する可能性があり、リングを分ける2本のすき間も惑星によって作られた可能性があるとしている。

なお今回の国際共同研究チームとは異なる、英・エクセター大学のステファン・クラウス氏らの研究チームも、同じオリオン座GW星をアルマ望遠鏡に加え、赤外線望遠鏡VLTを駆使しての観測を行った。すると、最も内側のリングの影が外側に伸びていることが見出されたという。これは内側のリングが大きく傾いていることを裏付ける結果といえるとしている。

一方、最も内側のリングの大きな傾きについて、クラウス氏らもコンピューターシミュレーションを行ったところ、三連星の重力だけでも作られうると結論づけている。傾きの原因については現在も議論が続いており、決着がついていない状況だが、オリオン座GW星は、連星の周囲の複雑な環境における惑星形成を理解するための重要なサンプルとなったとしている。

なお今回の研究には、武藤准教授のほかにも多数の日本人研究者が参加しており、アストロバイオロジーセンターの橋本淳氏、国立天文台/東京工業大学の野村英子氏、ジェット推進研究所の長谷川靖紘氏、中央研究院天文及天文物理研究所の高見道弘、大分大学の小西美穂子氏、茨城大学の百瀬宗武氏、東京大学の金川和弘氏、国立天文台の片岡章雅氏、プリンストン大学/大阪大学の小野智弘氏、国立天文台/工学院大学の高橋実道氏、大阪大学/東北大学の富田賢吾氏、国立天文台の塚越崇氏らが名を連ねている。

  • アルマ望遠鏡

    アルマ望遠鏡が観測した三連星系オリオン座GW星の周囲の3つの原子惑星系円盤(中心の3連星自体は写っていない)。最も内側のリングが真円に近く、残りのふたつは縦長に見えることから、最も内側のリングをほぼ真上から垂直に見ているのに対し、残りのふたつはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なっていると考えられている (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello (出所:国立天文台アルマ望遠鏡Webサイト)

  • アルマ望遠鏡

    今回の観測から明らかになった、オリオン座GW星の周囲の原子惑星系円盤の構造。中心に3連星があり、3本の濃いオレンジ色がリング。最も内側のリングは残りふたつのリングとは大きく異なる角度に傾いている。薄いオレンジ色は、リングの間の塵が低密度で分布している領域 (c) Kraus et al., 2020; NRAO/AUI/NSF (出所:国立天文台アルマ望遠鏡Webサイト)