東京大学医学部附属病院(東大病院)は、抗凝固薬である「ナファモスタットメシル酸(商品名:フサン)」と抗インフルエンザ薬「ファビピラビル(商品名:アビガン)」の併用療法を肺炎を発症し集中治療室(ICU)での治療を必要とした新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性患者11名にコンパッショネート(人道的)使用による観察研究を実施。その結果、10例において臨床症状の軽快が見られたことを発表した。

同成果は、同病院 救命救急センター・ERの土井研人 准教授、同 早瀬直樹 助教(特任講師(病院))、同病院 感染制御部の池田麻穂子 助教(特任講師(病院))、同 感染制御部の森屋恭爾 教授、同病院 救急科の森村尚登 教授、ならびにCOVID-UTH研究グループらによるもの。詳細は医学雑誌「Critical Care」オンライン版に掲載された

ナファモスタットメシル酸塩は抗凝固薬や膵炎治療薬として国内で使われてきた薬剤で、東京大学の井上純一郎 特命教授らが、新型コロナウイルスがヒトの細胞へ侵入する過程を阻止する可能性のある薬剤として報告している。一方のファビピラビルは国内外で新型コロナに対する臨床試験が進められている抗インフルエンザ薬。今回は、ICUでの管理が必要な新型コロナ感染患者11例にこの2種類の薬剤を投与。その結果、10例で臨床症状の軽快が見られ、平均16日で人工呼吸器が不要になったとしている。

今回の成果について研究グループでは、新型コロナウイルスの抑制に対するナファモスタットとファビピラビルの異なる作用機序と同時に、ナファモスタットの抗凝固作用の有効性が示唆されたとしている。ただし、ファビピラビル単独での効果は国内の臨床研究の結果が2020年7月段階で報告されていないことから、その評価には慎重を要するものの、ナファモスタットの単独の効果、並びにナファモスタットとファビピラビル併用効果の両方が考えられ、今後の臨床研究の必要性を示唆する結果となったとしており、今後も継続して研究を行っていくとしている。