宇宙飛行士訓練の聖地、NASAのジョンソン宇宙センター

「宇宙に行きたい!」という目標に向かって、彼女ほど真剣なミュージシャンがいるだろうか。

矢野顕子さんは宇宙好きが高じて2015年に「Welcome to Jupiter」、2018年に「When We're In Space」など宇宙に関する楽曲を次々発表。NASAの宇宙情報をまめにチェックし、Twitterでわかりやすく発信(特に宇宙飛行士情報には超詳しい)。私が書いた記事を読んで、埼玉の病院までプラネタリウムを見に来て下さったこともあった。そして極めつけは、宇宙飛行士訓練に水泳が必須と知り、金づちだったにも関わらず水泳を習い始めたこと。今では数百mを楽に泳ぐという。果てしなく遠かった「宇宙」というゴールを、着実に引き寄せるその行動力、恐るべし。

そんな矢野さんがついにNASAへ。目的地は米国テキサス州ヒューストンにある「NASAジョンソン宇宙センター(JSC)」。世界の宇宙飛行士たちは、必ずここを訪れ宇宙を生き抜く術を身に付ける「宇宙飛行士訓練の聖地」。日本人宇宙飛行士も宇宙飛行が決まるとJSC近辺に住み、身体に宇宙を刻み込む。さらに、2021年後半にも国際宇宙ステーション(ISS)への民間宇宙飛行が実現! などのニュースが相次ぎ、民間宇宙飛行士もここNASAで訓練を受けると聞く。

劇的な変化の最中にある「宇宙の街」ヒューストンで矢野さんが何を見て、何を想うのか。矢野さんは、そして私たちは宇宙に行けるのか? その取材の様子をお届けする。

  • ジョンソン宇宙センター

    NASAジョンソン宇宙センター、宇宙飛行士訓練施設で

中は宇宙。宇宙飛行士訓練用ISS実物大模型が並ぶ「ビルディング9」

NASAは広い。約100棟の建物の中で今回、目指すのは「ビルディング9(Bldg.9)」。ここには国際宇宙ステーション(ISS)の実物大模型が鎮座する。NASAだけでなく、ロシアや日本、欧州の実験棟、さらに現在開発中の宇宙船の実物大模型も用意されている。ISS居住棟はすべて合わせるとジャンボジェット機約1.5倍分の容積にもなる巨大な施設。そのすべてを備えているのは世界でここだけ。宇宙飛行士たちは様々な場面を想定し、訓練を繰り返す。

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    ドイツ人とロシア人の宇宙飛行士が訓練する様子 (提供:NASA)

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    NASA・JSCのBldg.9にあるISS実物大模型(の一部。広すぎて全景を写せない!)。2階のギャラリーから撮った写真。隣接する観光施設Space Center HoustonにはNASAを回るトラムツアーがあり、ガラス越しにこんな光景が見られる

2月14日、ヒューストンに到着した後、すぐにNASA・JSCへ。ゲート近くでプレスバッジを受け取り、エスコート役のジャネットさんの車でBldg.9へ。ビルへ入るにも厳重なセキュリティがあるのかと思いきや、NASA広報歴数十年のジャネットさんはマイボトル片手に裏口的? なドアにIDカードをかざし、さくっと中へ。

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    表玄関は別にあるが、ここが近いらしい

細長い通路をジャネットさんに続いてずんずん歩いて行くと…

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NASA見学の目玉としても知られるこの施設の役割は?

キター!! 宇宙飛行士が迎える大空間。

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    宇宙飛行士のパネルの向こうに、宇宙船らしきものが見える~!

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    大きなパネルに等身大パネルの宇宙飛行士たちがずらり

ISSから火星へ! 宇宙飛行士たちが出迎えてくれました!!

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    受付カウンターで、予定を確認するジャネットさん。左上のモニターには現在、モックアップ内で訓練中の宇宙飛行士や訓練担当者の様子が映し出されていた

そして、世界唯一であるこの施設を知り尽くした方が、私たちを案内して下さることに。スティーブ・リレイさんは宇宙飛行士訓練施設(SVMF=Space Vehicle Mockup Facility)の副施設長。NASA勤務歴24年。「元々は管制センターでロボティクス担当として働いていました。若田飛行士の訓練もサポートしましたよ」。

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    ジョーク好きのスティーブ・リレイさん。左胸にSVMFのワッペンが

スティーブさんは「今日はバレンタインだから」とチョコレートを配りつつ、SVMFについて話し始めた。「この施設の主な目的は宇宙飛行士の訓練や技術の評価。またISSで何かが壊れた時に、技術者や管制官がISSのリアルな状況や改善点を把握することです」。

宇宙飛行士訓練の目的は主に2つ。「まず、ISSがどういう環境かを知り、慣れること、そして緊急事態の対処です」。ISSの緊急事態は火災、急減圧、空気汚染の3つ。「ここには火災を模擬して煙をたく『煙発生器』があります」とのこと。

「宇宙飛行士は緊急時でも自分が宇宙に来た船で地上に帰らないといけません。煙が発生したときに、どこが火災の発生源か突き止め、どちらの方向に行けばいいか、酸素マスクはどこにあるか。地上で訓練しておくのです」

宇宙飛行士が緊急時にどんな判断を下し、ISS実物大模型の中をどう動くかは複数のテレビカメラでモニターされていて、訓練後に多数の訓練担当者から評価される。テレビで見たことがあるが、相当シビアな訓練である。「Soichi(野口聡一飛行士)が今年、宇宙に行く前にもきっとここで緊急時訓練をするから是非来ると良いわ」。ジャネットさんがウィンクする。

前置きはこのくらいにして、さっそくISSの中へGO!