パワー・エレクトロニクスの設計には、エネルギーの貯蔵からフィルタ、そしてデカップリングなどの機能のためにコンデンサが不可欠です。コンデンサにはさまざまなタイプがありますが、それらは定格容量や定格電圧が同等だとされていても、実際の性能が異なる場合があります。ここで選択を誤れば、過剰な設計によってソリューションのコストが高くなるばかりか、製品の信頼性や安全性が損なわれる可能性もあります。

このレポートでは、パワー・エレクトロニクス用途で使用できる、各種のコンデンサについて説明します。特に電解タイプとフィルム・タイプを比較して、それぞれに適した用途を明らかにしていきます。

各種のフィルム・タイプについては、それぞれの構造を詳細に示し、推奨されるタイプを特定します。容量、リップル電流定格、過渡電圧耐性、安全定格などの仕様、またその他の特性についても記載されています。電圧ストレス後の「自己修復」現象については、物理的なメカニズムと、一般的な回路における有効性を示します。

またパワー・エレクトロニクスにおけるフィルム・コンデンサの主要な用途を特定し、フィルム・コンデンサを適切に選択する方法を紹介します。さらにいくつかの回路の例について詳細な計算を行い、特定のコンデンサと定格の選択方法を示します。これらの計算は、エンジニアが設計の基礎として利用できるように一般化されています。

パワエレにおけるフィルム・コンデンサの役割

今日の電子機器で、コンデンサを一切使用しないということは考えられません。たとえば携帯電話の場合、見えないほど小型の表面実装タイプであっても、コンデンサは必要です。パワー・エレクトロニクス(パワエレ)において、フィルタリング、エネルギー変換・伝送が大きな要素となりますが、一方、コンデンサの容量は立方インチで計測できます。

パワエレでは、アルミニウム(Al)電解タイプとフィルム・タイプを選択できる場合がありますが、エネルギーの貯蔵密度の点ではAl電解タイプが優れています。フィルム・タイプでこれに匹敵するのは、「セグメント化高結晶性金属化プロピレン」など、特異で高コストなものに限られます。しかも、高温ではリップル電流定格を維持することができません。Al電解は寿命と信頼性の点で評価が比較的低いという問題がありますが、それは酷使される環境場合に限られます。電圧、リップル電流、温度が適切に調整ディレーティングされていれば、何年もの使用に耐えられます。所定の容量電圧(CV)定格で低コストであることは、商用AC-DC電源の内蔵高電耐圧DCバスなど、大容量のエネルギー貯蔵用途において実用的なソリューションであるために重要です。

ただしフィルム・タイプのコンデンサにも、Al電解タイプに比べて優れた面があります。同一のCV定格で等価直列抵抗(ESR)が非常に小さくなるため、通常はリップル電流定格が向上します。

また過大な電圧に対する耐性が比較的高く、場合によってはある程度の絶縁破壊があっても「自己修復」でき、システムの信頼性と寿命が向上します。局部的な絶縁破壊が発生した場合には、フィルム・コンデンサの本体に短絡が形成されますが、プラズマアークが発生することで短絡が解消されます。ただしこれは応力限界以下でのみ機能します。炭素析出とその影響による誘電体絶縁の損傷があれば、致命的な故障になる可能性もあります。

Al電解は、通常20%の過電圧にしか耐えられませんが、フィルム・タイプの場合は一定時間内であれば100%耐えることができます。故障モードでの違いも大きくなります。Al電解では過大な圧力がかかることで短絡が発生し液体電解質が放出されることで、他のコンポーネントが損傷を受けることがあります。

Al電解タイプとフィルム・タイプでの理論的な故障率は適正な定格低減と同程度ですが、誘導負荷や落雷などによる電圧ストレスが発生することがある現実の用途では、この2つのテクノロジーはシステムの信頼性の点で大きく異なります。フィルム・コンデンサには湿気による劣化の問題があります。これは他のコンポーネントについても共通の問題であり、信頼性を高めるためには湿度を制御する必要があります。

エネルギー貯蔵が主要なパラメータでない場合、フィルム・コンデンサはが高性能のソリューションになる可能性があります。例えば、電気自動車、代替エネルギー・システム、無停電電源などで使用されるバッテリー式のDCバスなどが挙げられます。低損失と低リップル電圧を実現するにはコンデンサのESRを小さくすることが不可欠ですが、こうした用途では、コンデンサの主要な機能は、数百または数千Aになる高周波のリップル電流の発生と減衰を制御することにあります。

バス電圧を大きくする場合もフィルム・コンデンサ・タイプが適しています。高電圧でも低いCV定格で同量のエネルギーを貯蔵できるため(E=CV2/2により)、必要な容量が少なく、必要に応じ、kV定格でフィルム・タイプを使用できます。Al電解は技術的な制約から約550Vが限度になっています。重ねることで電圧を上げることはできますが、固有の高い、可変漏れ電流が並列の分圧抵抗器が必要になり、それに伴うコストや損失も発生します。

Al電解の短絡故障モードについて考察しましたが、直列の場合、このように1つの障害が発生すると他の部分に高電圧が生じ、それが重なって結果的に大きな損傷が発生します。

フィルム・コンデンサとAl電解コンデンサの実際用上の違いは、実装方法にあります。フィルム・コンデンサは体積効率に優れた長方形のボックス形式で、ワイヤ、ねじ、ラグ、プッシュ式コネクタ、バスバー終端などから選択できます。Al電解の場合は同様の終端を利用できますが、円形の金属缶が唯一の標準オプションです。フィルム・タイプはAl電解タイプと異なり、無極性であるため、電圧の極性を問わず、反転が可能です。これはフィルム・タイプが、インバータ出力フィルタリングなど、AC電圧が適用される用途に最適であることも示しています。

ここまでは一般的なフィルム・タイプのコンデンサ全般について見てきましたが、性能と用途が異なる多数のサブタイプが存在します。図1[1]に、パワー・エレクトロニクスで使用されるタイプと、主要な特性を示します。

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    図1:フィルム・コンデンサの特性

パフォーマンス・データを見ると、電圧と容量の範囲が広く自己修復性に優れたポリプロピレンが、パワー・エレクトロニクス用途に適した特性を示しています。すべての周波数で誘電正接(DF)の数値が特に低いことも重要です。DFは、容量性リアクタンスZC = 1/2πfCに対するESRの比率です。数値が低い場合は、他の誘電体に比べて熱効果が低いことを意味しています。これを見ることで、コンデンサのタイプごとにマイクロファラッド単位で静電容量の損失を比較できます。一般的に温度と周波数によるDFの変化はわずかですが、比較ではポリプロピレンが優れた特性を示しています。図2のグラフを参照してください。

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    図2:ポリプロピレン・フィルムを使用した場合の、温度と周波数による誘電正接の典型的な変動 (出典:Cornell Dubilier)

電力の重要性が低い用途では、高比容量(体積あたりのCV)と広範な温度範囲を特徴とするポリエステルが、低コストの優れた選択肢になります。