東北大学は、2019年11月19日に100%子会社の「東北大学ナレッジキャスト」(仙台市)を同年10月9日に設立したと発表した。

この新会社の東北大学ナレッジキャストは、東北大学が保有する優れた研究成果や研究者などが持つ知識資産(ノウハウやデータベースなど)を基に、企業が製品開発や事業開発などで必要とするコンサルティングなどの産学連携事業を行う目的で設立された。さらに、こうした企業での新事業開発で必要とされる人材育成などを支援するイノベーティブ人材育成セミナーなどの研修・講習事業も手がける方針である。

今回の東北大学ナレッジキャスト設立で注目される点は、この新会社の設立資金として、東北大が資本金の8000万円をすべて出資したことにある。国立大学の中で、文部科学省から指定国立法人に指定された東北大だから可能な出資である。

著者注;平成29年(2017年)6月30日に文部科学大臣は東京大学、京都大学、東北大学の3大学を指定国立大学法人に指定した。この指定を受けた3大学は、日本国内の競争環境の枠組みから、国際的な競争環境の中での視点で、世界の有力大学と競争していくことが求められ、自主的な活動枠が与えられた。これによって国立大学改革の推進役としての役割を果たすことが期待されており、その一環として100%子会社を設立することができる。すでに、東大と京大は100%子会社を設立済み。
さらにその後、東京工業大学、名古屋大学、大阪大学、一橋大学が指定国立大学法人に指定され、2019年11月現在、7大学が指定されている。

さらに、今回の東北大による東北大学ナレッジキャスト設立のプレスリリースの発表の仕方で注目される点は「東北大学 総長・プロボスト室」名で公表されたことにある。通常のプレスリリースは総務企画部広報室から公表されるのが普通だからである。

この「プロボスト」とは、東北大が指定国立大学法人に指定されたことを受けて、全学的な重点施策や戦略的な人事などを担当する"企画戦略総括"の役割を果たす司令塔として置いたポストである。そして、そのプロボストには青木孝文理事・副学長(図1)が就任している。大学を改革していく司令塔の役目を果たすポストである青木理事・副学長・プロボストは、ナレッジキャスト社の非常勤取締役にも就任している。

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    図1 青木孝文理事・副学長・プロポスト

その青木理事・副学長・プロボストに、東北大学ナレッジキャスト社の事業展開の進め方などについて聞いた。

--東北大学ナレッジキャスト社を率いる経営陣は

青木(以下、敬称略):東北大学ナレッジキャスト社の代表取締役には荒井秀和氏に、常務取締役には村田裕之氏に就任していただきました。

登記上の本社は、仙台市の東北大片平キャンパス内ですが、事実上の同社の活動拠点は同社が東京都中央区日本橋本町に設けた東京オフィスになります。実際のスタッフの多くも東京オフィスに勤務する見通しです。実際の具体的なスタッフ数は現在、募集中で現時点(2019年11月19日時点)では未定です。

--同社の具体的な事業内容・事業モデルは?

青木:同社の事業モデルは、企業などの新製品・新サービス開発などを支援する"ナレッジキャスト"です。具体的には、企業の新製品・新サービス開発などの研究開発段階での"知識"(研究開発成果・研究開発シーズや事業モデル構想のアイデア、特許など)提供や製品開発段階での具体的なコンサルティング業務などです。

東北大では約3000人の教員(教授や准教授、助教など)などが先端的で独創的な研究開発を続けています。その研究開発活動の中から革新的なアイデアや研究開発成果や知識・データベース、特許などが産まれ続けています。まずは、こうした知識と企業側ニーズとのマッチングを行い、さらにコンサルティング業務に進みます。企業側がどういう事業シーズを求めているかなどをお伺いし、具体的なコンサルティング内容に進みます。

この産学連携は実際には、そう簡単なことではありませんが、多彩な研究者群を抱えている東北大が事業開発の解決や技術的なブレークスルーに的確に答えるためのコンサルティング業務を果たします。さらに、東北大が保有する先端的な研究開発機器などの研究開発施設も大きな力を発揮するとみています。

--具体的には、どのような分野を狙うのでしょうか

青木:第一弾としては、ライフサイエンス分野を狙います。現在、東北大では、ライフサイエンス・ヘルスケア分野で企業との産学連携による共同研究が急拡大しています。

今回、同社の代表取締役に就任した荒井秀和氏と常務取締役に就任した村田裕之氏の2人は、すでに東北大内で、こうしたライフサイエンス・ヘルスケア分野で活躍しているエキスパートです。

具体的には医療機器開発支援サービスや健康寿命延伸ビジネスサービス(スマート・エイジング・カレッジ)でのコンサルティングなどを目指しています。

事業計画としては、同社は2025年までにライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心とした産学連携事業による収入として売上高10億円を目指します。さらに2030年までには急成長させる計画です。

--ライフサイエンス・ヘルスケア分野での具体的な強みは?

青木:東北大は東北メディカルメガバンク機構として、世界初の7万人規模の3世代コホート調査のデータや実施ノウハウを持っています。このコホートとは、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究です。世界でも有数な複合バイオバンクを構築し、未来型医療の先端研究を推進しています。

また、健康寿命延伸ビジネス支援を強力に進めるコンサルティング機能を拡充しつつあります。

こうしたライフサイエンス・ヘルスケア分野での付加価値の高いコンサルティング事業を推進する事業計画を練っています。

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    図2 東北大学ナレッジキャスト社の事業モデル(東北大資料)

著者プロフィール

丸山正明(まるやま まさあき)
技術ジャーナリスト

元・日経BP産学連携事務局プロデューサー
東京工業大学大学院非常勤講師を経て、横浜市立大学大学院非常勤講師、大阪大学大学院非常勤講師、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業評価委員などを務めている