Cloudianから、エッジにおけるリアルタイムAI処理デバイス「Edge AI Box」および関連プラットフォーム/ソリューションの提供を行うことを目的にスピンオフして設立されたEDGEMATRIXは8月29日、エッジAI事業の本格展開に向け、NTTドコモ、清水建設、日本郵政キャピタルの3社から8月6日付で第三者割当増資により9億円の資金調達を行ったことを明らかにした。

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    EDGEMATRIXの本格始動に際しての記念撮影。左から、清水建設 執行役員の関口猛氏、EDGEMATARIX 代表取締役副社長の本橋信也氏、EDGEMATRIX 代表取締役社長の太田洋氏、NTTドコモ 執行役員の谷直樹氏、Cloudian CEOのMichael Tso氏

EDGEMATRIXは、もともとCloudianの日本法人クラウディアン内部で進められていたAI関連事業を引き継ぐ形で設立されたもの。設立は2019年4月26日付けで、同7月1日付けでCloudianおよびクラウディアンのAI事業を正式にスピンオフ、そしてNTTドコモ、清水建設、日本郵政キャピタルとの協業合意を経て、今回の資金調達に至った。

EDGEMATRIXは、増え続けるIndustrial IoT(IIoT)分野で生み出されるデータをリアルタイムで現場で処理し、活用することを可能とするエッジAIの普及・促進を目指すことを目的としており、そのために「エッジAIデバイス」「エッジAIプラットフォーム」「エッジAIソリューション」の3つの事業を絡み合わせる形で展開していくとしている。

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    EDGEMATRIXは3つの事業でエッジAIの普及促進を図っていく

具体的なターゲットは、高精細カメラによる画像認識を必要とするアプリケーションユーザー。同社のロゴも、「プリズムが光を変化させて人間が利用できるように、4K/8Kの高精細画像をAIで処理していくことをイメージしたもの」(EDGEMATRIX代表取締役副社長の本橋信也氏)とのことで、「こだわりはIntelligent Video Analytics(IVA)と最近では言われるカメラとAIを組み合わせた映像分析ソリューションによって、人の目が届かない場所までカバーし、それを見える化して、人が理解できるようにすること」(EDGEMATRIX代表取締役社長の太田洋氏)と、画像解析に向けた並々ならぬ意欲を見せる。

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    AIの普及・浸透のためにはエッジでのAI活用が欠かせないという考えから、EDGEMATRIXが設立された

ただしEDGEMATRIXそのものが画像認識AIを提供するわけではない。「我々のフォーカスは、AIの開発や実証実験そのものは多くの企業が行っているが、そうして開発されたものをどのように現場に展開していくか、展開した無数のデバイスをどうやって管理するのか、といった点で、その具体的な取り組みが3つの事業となる」(同)とする。

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    3つの事業が密接に連携して、エッジAIを使いたいユーザーがその中から最適な組み合わせを行うことで、高精度のAIを素早く手軽に実現できるようになることを目指す

エッジAIデバイス事業は、クラウディアン時代から提供してきた「AI Box」を「Edge AI Box」に進化させ、それと各種ネットワークを組み合わせて提供しようというもの。屋外での活用にこだわりをもっており、防水防塵ならびに落雷対策を施したハードウェアが提供されるという。

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    Edge AI Boxのモック。左3つがEdge AI Box - Standard、最右がEdge AI Box - Advanceの外観

また、その処理性能もラボレベルの性能を発揮できるCore i7(Kaby Lake/Skylake世代)およびNVIDIA Tesla T4搭載かつ2020年には5Gのサポートも予定されている「Edge AI Box - Advance」、さまざまな用途に応じて使い分けが可能で、NVIDIA Jetson TX-2を搭載した汎用シリーズ「Edge AI Box - Standard」、そしてエントリー向けにNVIDIA Jetson Nanoを搭載した小型軽量、低消費電力モデル「Edge AI Box - Light」と、複数ラインナップが用意される予定で、Edge AI Box - AdvanceならびにEdge AI Box - Standardは2019年第4四半期中に発売される予定。Edge AI Box - Lightについても、現在鋭意開発中で、2019年内には投入される予定としている。

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  • Edge AI Boxの概要と基本仕様

エッジAIソリューションは、エッジAIの実用化を視野にいれたカスタムソリューション開発ビジネスで、すでに清水建設と共同で、監視カメラが多数設置されているビルでのセキュリティや省エネ、スペースの有効活用、設備管理などを実現するスマートビルディングプロジェクトが進められているほか、スマートファクトリとして、ライン上を流れる製品の良品判定の自動化などに向けた取り組みが進められているという。

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    エッジAIソリューション事業の概要

「エッジAIの普及には、AIのインテグレーションが必要だが、そのためには、AI以外の工場やビルなどの条件に応じた開発が重要になり、さまざまな専門性が求められる。その解決のために、パートナーシップを活用し、専門知識を有するさまざまな企業と協力関係を構築して、ソリューションとして提供していく」と太田氏は説明する。

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  • 清水建設と共同で進めるスマートビルディング/スマートファクトリの取り組み

そしてエッジAIプラットフォーム事業は、アプリケーションデベロッパーへのマーケットプレイスの提供や接続デバイスの管理コンソール、ソフトウェアアップデート機能の提供、ユーザーが課金したアプリケーションのデベロッパーに対する回収代行、といったことを提供していくことが予定されているという。

「行動分析や滞留分析、その場を通る自動車のナンバー認識、交通量計測、在庫管理、災害監視など、さまざまな画像認識AIを活用したアイデアが存在しているが、それらをマーケットプレイスから汎用性高く提供することで、ユーザーは手軽にシステムの運用性を高めていってもらうことができるようになる」(同)とする。また、ほかの機能としてAIが異常を判定した際に、その様子をワンタッチでモニターやモバイル機器で見ることを可能とする「エッジビュー機能」といったものも提供される予定だという。

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  • エッジAIプラットフォームサービスの全体像と、マーケットプレイス、エッジビューのイメージ

なお、エッジAIデバイスは2019年第4四半期までに第一弾機種すべてが市場投入される予定で、Advanceモデルの5G対応は、2020年第2四半期にサンプルモデルが提供される予定だという。また、エッジAIソリューションはすでに清水建設と建物向けIoT・AIプラットフォームの開発を開始しており、2020年第2四半期には実証実験が開始される予定のほか、2019年第4四半期にはパートナー/開発者支援プログラムの開始や、2020年第1四半期のプラットフォーム連携ソリューションの開発などが予定されている。そしてエッジAIプラットフォームは、2019年第4四半期に開発者支援ツール(SDK)の提供が予定されているほか、2020年第1四半期にベータ版サービスの開始、2020年代2四半期の商用サービス開始を予定しているとする。

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    EDGEMATRIXが想定している2020年第2四半期までのマイルストーン