米国の宇宙企業スペースXは2019年4月12日、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の2号機の打ち上げに成功した。

ファルコン・ヘヴィにとって、民間企業から受注した初の商業打ち上げであり、「ブロック5」と呼ばれる新型の機体を使用した初の打ち上げにもなった。

さらに6月には、米空軍などの衛星を載せた3号機の打ち上げにも挑む。

  • ファルコン・ヘヴィ

    アラブサット6Aを搭載したファルコン・ヘヴィの打ち上げ (C) SpaceX

ファルコン・ヘヴィ(Falcon Heavy)は、サウジアラビアの通信衛星「アラブサット6A」を搭載し、日本時間2019年4月12日7時35分(米東部夏時間11日18時35分)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、打ち上げから2分34秒後に、機体の両側にある機体「サイド・ブースター」を分離。2基のブースターは自律して逆方向に飛行し、発射台に程近い第1、2着陸場(Landing Zone 1, 2)にそれぞれ着陸した。

ブースター分離後、ロケットは中央の機体「センター・コア」の噴射で飛行し、打ち上げから3分35秒後に第2段と分離。センター・コアも自律飛行しながら降下し、大西洋上に浮かぶドローン船「もちろんいまもきみを愛している号」に着地した。

第2段機体はその後も飛行を続け、打ち上げから34分02秒後に衛星を分離し、打ち上げは成功した。

ファルコン・ヘヴィ初の商業打ち上げ

ファルコン・ヘヴィは、スペースXが開発した超大型ロケットである。同社の大型ロケット「ファルコン9」を3機束ねるような形で構成されており、これにより比較的短期間、低コストで超大型ロケットを開発することに成功した。

また、センター・コアとサイド・ブースターの機体は着陸と回収、そして再使用ができ、また一度ファルコン9の第1段として打ち上げられた機体を、ファルコン・ヘヴィの機体として再使用することもできる。

打ち上げ能力は地球低軌道に約63.4t、静止トランスファー軌道に26.7t、火星には16.8tで、現在運用中のロケットの中で最も大きな打ち上げ能力をもつ。ただしこれは機体をすべて使い捨てて打ち上げた場合の数値であり、サイド・ブースターやセンター・コアを回収する場合は、打ち上げ能力は落ちる。

初打ち上げは2018年2月7日に行われ、試験用の重り代わりに搭載した、同社CEOイーロン・マスク氏の愛車、赤い「テスラ・ロードスター」を、火星の公転軌道を越える惑星間軌道に投入した。

今回の2号機は、試験機だった1号機とは異なり、民間の衛星通信会社から受注した打ち上げ契約に基づく、初の商業打ち上げとなった。

アラブサット6Aは、サウジアラビアの衛星通信会社アラブサットが運用する通信衛星で、ロッキード・マーティンが製造した。東経30.5度の静止軌道から、中東やアフリカ、欧州へ通信サービスを提供する。

衛星の質量は約6460kgで、ファルコン9ロケットでも打ち上げは可能だが、強大な打ち上げ能力をもつファルコン・ヘヴィを使うことで、効率よく静止軌道に到達できる軌道に投入した。通常、静止衛星がロケットによって投入される静止軌道の一歩手前の軌道をことを静止トランスファー軌道と呼ぶが、今回のような軌道は「スーパーシンクロナス・トランスファー軌道」と呼ぶ。

静止トランスファー軌道は遠地点高度(楕円の軌道の中で地球から最も遠い点)が静止軌道と同じ3万5800kmだが、スーパーシンクロナスではさらに高く、今回の場合は約9万kmにまで達している。

これにより、最終的な静止軌道に乗り移るための推進剤が節約でき、その結果、通常なら約15年のミッション期間を、20年近くにまで引き伸ばすことができるという。

さらに、6t以上ある衛星をファルコン9で打ち上げるには、能力をフルに発揮しなければならず、第1段機体を使い捨てる必要があり、打ち上げコストは高くなる。一方、ファルコン・ヘヴィは、ファルコン9より大きなロケットではあるものの、今回のようにセンター・コアとサイド・ブースターを回収する場合、ファルコン9を使い捨てるよりも打ち上げコストは約500万ドルほど安価になるという。

つまり、ファルコン9を使うよりも安いコストで、より高い性能を提供することができ、今回の打ち上げはまさにその特性が発揮された。

  • ファルコン・ヘヴィ

    アラブサット6Aを搭載したファルコン・ヘヴィの打ち上げ (C) SpaceX

新たなるファルコン・ヘヴィ

今回の打ち上げはまた、ファルコン・ヘヴィの機体に、ファルコン9の新型機ブロック5の機体を使用した、初の打ち上げでもあった。

ファルコン9は誕生以来、度重なる改良が加えられてきたが、ブロック5はその最後の改良型に位置づけられている。従来型と比べ、主に再使用性の向上が図られており、機体の部品交換など改修をせずに10回以上、そして部品交換などを含む定期的なメンテナンスを行うことで100回以上の再使用を可能にし、また24時間以内に同じ機体を2回打ち上げることも可能だという。

また、有人ロケットとしても使えるよう、NASAの定める安全性などの基準を満たすために、設計や部品に改良が加えられている。

ファルコン9としてのブロック5は2018年5月12日に初飛行し、同7月以降の打ち上げには、すべてブロック5が使用され、成功を収めている。そして今回、ブロック5の機体を使ったファルコン・ヘヴィが初飛行を迎えた。

マスク氏は事前に「昨年の試験機とは異なり、新型のブロック5の機体を使ったファルコン・ヘヴィの初飛行であるため、失敗のリスクは若干ある」とコメントしていたが、無事に打ち上げは成功。さらに今回も2基のサイド・ブースターは着陸に成功し、センター・コアもドローン船への着地に成功した。ただしセンター・コアはその後、荒れた波のせいで船が大きく揺れたことで機体が倒れ、損傷。回収には失敗したという。

  • サイド・ブースター

    打ち上げ後、発射場に程近い着陸場に舞い戻った2基のサイド・ブースター (C) SpaceX

今年6月以降には、ファルコン・ヘヴィの3号機の打ち上げも予定されている。この打ち上げでは、米空軍の技術試験衛星など、数十基の小型・超小型衛星を搭載する。また、この打ち上げで使うサイド・ブースターは、今回回収した機体を再使用するという。

さらに、今回の打ち上げでは衛星フェアリングの回収も行われた。ただし、以前からスペースXが挑戦している、フェアリングをパラフォイルで飛行させ、ネットを張った船で捕まえる形ではなく、パラフォイルで海上に着水させ、それを船で引き上げるという形で回収された。

マスク氏によると、今回回収したフェアリングは、洗浄やメンテナンスをした上で、今年後半に、同社が構築を目指す宇宙インターネット「スターリンク(Starlink)」の衛星の打ち上げで再使用するという。

  • 衛星フェアリング

    アラブサット6Aの打ち上げ後、回収された衛星フェアリング (C) Elon Musk/SpaceX

出典

ARABSAT-6A MISSION | SpaceX
ARABSAT-6A PRESS KIT
Falcon Heavy | SpaceX
SpaceX’s Falcon Heavy successful in commercial debut - Spaceflight Now

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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