糖尿病になると筋肉量が減少するメカニズムを解明した、と神戸大学の研究グループが発表した。血糖値が上昇すると2つのタンパク質の働きを通じて筋肉量を減少させるという。研究成果は21日付の米科学誌「JCI インサイト」電子版に掲載された。

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    4枚の顕微鏡写真のうち右上の「糖尿病マウス」は筋肉が減少し、筋繊維が縮小している(提供・神戸大学大学院の研究グループ/神戸大学)

高齢者は筋肉量が減って活動能力が低下してしまうと、さまざまな病気にかかりやすくなる。高齢者の筋肉が減少して身体機能が低下する状態は「サルコペニア」と呼ばれ、特に糖尿病患者はこの状態になりやすいとされていたが、そのメカニズムは未解明だった。

神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の小川渉教授らの研究グループは、マウスを実験的に糖尿病にするとそのマウスは筋肉量が減って「KLF15」というタンパク質が筋肉で増えることを発見した。一方、KLF15がない糖尿病マウスをつくって調べたところ筋肉は減らなかった。

研究グループは、これらの実験データを分析した。その結果、血糖値の上昇がKLF15の分解を抑制してしまい筋肉に蓄積することや、「WWP1」という別のタンパク質がKLF15の分解を促すなど重要な働きをしていることが明らかになったという。

糖尿病はインスリンというホルモンが体の中で十分に働かなくなることによって起こる。インスリンは血糖値を整えるだけでなく、細胞の増殖や成長を促す働きがあるためにインスリンの作用が足りなくなると筋肉細胞の増殖や成長が妨げられて、筋肉が減少するのではないか、という仮説も提唱されていた。小川教授らは今回、2つのタンパク質の役割を突き止めて血糖値の上昇自体が筋肉の減少を引き起こすことを明らかにした。

現在、筋肉の減少に対する薬はない。研究グループによると、この2つのタンパク質が関連する筋肉減少のメカニズムは人間にもあり、WWP1の働きを強めたり、KLF15の働きを弱めることができる薬を開発できれば、糖尿病患者だけでなく、多くの高齢者の筋肉減少対策に役立つ可能性がある、としている。

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