ルネサス エレクトロニクスは1月21日、産業機器向けの事業を展開しているインダストリアルソリューション事業に関する説明会を開催。同社が2015年より打ち出したエッジ/エンドポイントにAI機能を搭載させるe-AIコンセプトに基づく製品ラインアップが出揃ってきたことを背景に、同市場のリーダーを目指すことを宣言した。

e-AIの時代が到来

同事業の主軸は「スマートファクトリ」、「スマートリビング」、そして「スマートインフラ」の3つ。この3つの市場のエンドポイントに受け入れられることを目指してきたのがe-AIであるが、近年、さらなる市場拡大を目指し、e-AIへの独自アクセラレータ「DRP(Dynamic Reconfigurable Processor」の搭載や、超低消費電力を実現可能とするFD-SOI技術「Silicon on Thin BOX(SOTB)」の実用化などを積極的に進めてきた。

  • e-AI

    ルネサスが狙うのはあくまでOTにおけるAIの活用

同社執行役員常務 兼 インダストリアルソリューション事業本部長の横田善和氏は、e-AIの狙いについて、「従来、AIの実現には、数百ドルのチップを使う必要があったが、学習をリアルタイムではなく、事前にできるのであれば、コストパフォーマンスの高い推論をOT(Operational Technology)領域で実現できると考えて提唱したもの」と説明。2015年、提唱した当時は、世の中は冷ややかでAIはクラウドで実現するもの、と言われていた。しかし、これが3年経って、クラウドだけでなく、エッジであってもAIができる、という話になって風向きが変わってきたと、徐々に注目を集めだしていることを強調。すでに200社ほどのパートナーがグローバルで評価を進めている段階に至っているとする。

  • e-AIトランスレータ

    2017年よりe-AIトランスレータというGPUなどで学習したアルゴリズムをe-AIに組み込むために軽量化するツールの提供なども開始

e-AIの進化と普及の鍵を握る「DRP」

同社では、e-AIはできる応用範囲に応じてクラス1~クラス4までの4段階が想定されており、これまではマイコンやマイクロプロセッサ上にe-AIを搭載するクラス1が主で、ようやくクラス2と位置づけたDRPを搭載したプロセッサ「RZ/A2M」を2018年の10月に発表した段階にある。

DRPは、その名のとおり、ダイナミックに回路を再構成することで、1チップで複数の役割を持たせることを可能とする技術。PLDやFPGAで行われるような回路の切り替えをリアルタイムで実現できるという優れもの。かつて似たようなコンセプトを掲げた半導体企業が日本にあったほか、同社の前身の1つであるNECエレクトロニクスの時代などでも一部のカスタマで採用された実績などがあったのだが、まず、その概念を理解して使いこなすことが難しいという課題があり、汎用的な用途としての普及は進んでこなかった。

  • DRP

    DRPの概要。高速に回路を切り替えることで、リアルタイムでさまざまな機能を小面積のチップで実現できるという技術となる

この使い勝手の難しさ、という点は同社も重々承知しており、現在は、ライブラリとして用途に応じた回路を複数用意して提供していくという方針を掲げている。すでに複数種類は提供できる段階にあるとしているが、今後、さらに産業機器向けのライブラリの拡充を図り、その数を2桁まで引き上げていく予定だとのことで、カスタマの使い勝手の向上を意識した取り組みを重点的に推し進めていくとする。

同事業本部 シニアダイレクター 兼 インダストリアルオートメーション事業部長の傳田明氏によると、「18ヶ月ごとに10倍の性能向上の実現が目標」とのことで、クラス3に向け、学会レベルではすでに発表済みのDRPをAI用途に拡張したものの製品化を推し進めていくとしている。

  • DRP

    DRPのロードマップ。クラス3までのめどは立っているようだ

また、先行してクラス1のe-AIを導入してきた同社の那珂工場には現在150台のAIユニットが活用されており、これにより生産リードタイムは導入前の2/3に短縮されたほか、システム全体で年間10億円のコスト削減効果に加え、熟練エンジニアによるメンテナンス時間が削減されたことによる人的資源の確保といった副次的効果を得ることもできることが確認されたとのことで、今後、同社のほかの工場への展開も含め、3000台規模へと導入数を拡大していく計画であることも示された。

  • 那珂工場

    ルネサス那珂工場における実績

  • DRP+e-AI

    DRP+e-AIによるリアルタイム画像認識のデモ。アナログのメーターの画像を取得し、針の振れ方によって、グリーン、オレンジ、レッドの画像処理をリアルタイムで行うというもの

DRP+e-AIによるリアルタイム画像認識のデモ