尖ったデバイスでOTのAI化を目指す

ルネサス執行役員常務で、インダストリアルソリューション事業本部本部長を務める横田善和氏

ルネサス エレクトロニクスは1月30日、都内でプライベートカンファレンス「R-INコンソーシアムフォーラム」を開催。基調講演に際し、同社の執行役員常務 兼 インダストリアルソリューション事業本部 本部長の横田善和氏が登壇。同社のインダストリアルソリューションの方向性について説明を行った。

2015年に発足したR-INコンソーシアムは、同日時点で67社のパートナーが加盟しており、その業種も、組み込み、RTOS、ミドルウェア、ソフトウェアなど幅広いものとなっている。そんなルネサスのインダストリアルソリューションが注力しているのが、「スマートフォーム」「スマートファクトリ」「スマートインフラ」で、横田氏は「スマート3兄弟」と表現する。

  • R-INコンソーシアムの現状
  • R-INコンソーシアムの現状
  • R-INコンソーシアムの現状

なかでも高い成長率が期待されるスマートファクトリにもっとも注力しており、「目指すのは工場のエンドポイント、いわゆるOT(Operational Technology)での存在感を増すこと」(同)とする。

というのも、同社は人工知能(AI)をOTで活用することを目指す「e-AI」を掲げて、この数年間、取り組みを加速させてきた。従来のGPUを活用したディープラーニングは、クラウド環境で学習を行い、そこで推論の実行も行おうというもので、いわゆるIT側の話題であった。しかし、それをそのままものづくりの現場に適用させようとすると、ネットワークを外部に出すというセキュリティリスクはもとより、学習はともかく、推論をネットワークの向こう側で行い、結果が返ってくるまでのタイムラグにより、リアルタイム性の担保をどうするか、といった課題に直面することとなる。そこで、推論をOTで行うことができれば、リアルタイム性に加え、ネットワークを外部にさらさない安全性、そして冗長性も担保しやすくなるというメリットを提供できるようになる、ということからの取り組みである。

  • ITとOTの関係性
  • ディープラーニングの学習と推論の関係性とe-AIのポジション
  • ルネサスの成長ドライバ「e-AI」は、OTでの活用を見込んだAI。学習と推論を切り離し、推論に特化することで、OTで求められるニーズに対応することが可能となった (資料提供:ルネサス エレクトロニクス)

「学習と推論を分離して、推論だけなら、学習に比べて1/100~1/1000程度のパフォーマンスであっても実現できる。そこに最適なソリューションを提供しようというのがe-AIのコンセプトであり、すでに我々はマイコンなどを活用して、ある程度、実現できるところまで来ている」(同氏)とするが、次の一手として、同社の保有するDRP(ダイナミックリコンフィギュラブルプロセッサ)を活用することで、さらなる高性能製品の提供を目指すという。

  • DRPの概要

    DRPの概要。1クロックごとに回路構成を変更することが可能という特徴を有している

具体的には、RZ/Aシリーズの新製品として、DRP搭載品を2018年中盤に発表する計画だという。DRPのクロックごとに回路構成を変更できるという特徴を活用することで、従来製品比で10倍の推論性能向上を見込むとする。また、2019年後半には、さらにDRPの回路数を増やすことで、前世代比で10倍の性能向上した製品を、さらには2021年にも、プロセスの微細化を施すことで、さらに性能を前世代比で10倍、つまりDRP非搭載品比で1000倍の性能向上を目指すとする。こうしたほかに類を見ないデバイスを同社では「Distinguishing Device」、日本語では「尖ったデバイス」と呼び、価値のあるソフトウェアと組み合わせたソリューション、そしてプラットフォーム化を図り、顧客への提供を目指すとしている。

「e-AIの性能が現在の1000倍に高まれば、ローエンドの学習までリーチできるところまで行けるのでは、と考えている。そうなれば、OT側で学習と推論を実現することも可能になると思っている」(同氏)とのことで、これが実現されれば、より幅広い分野にもe-AIを武器にアプローチをかけることも期待できるようになる。

  • e-AIをベースに、尖ったデバイスと価値のあるソフトウェアソリューションを組み合わせることで、製造現場に付加価値を提供できるようになるという
  • e-AIをベースに、尖ったデバイスと価値のあるソフトウェアソリューションを組み合わせることで、製造現場に付加価値を提供できるようになるという
  • e-AIをベースに、尖ったデバイスと価値のあるソフトウェアソリューションを組み合わせることで、製造現場に付加価値を提供できるようになるという