オランダの半導体メーカーであるNexperia(2017年にNXP Semiconductorsのスタンダードプロダクト事業部門が独立)の株式のうち75.86%を中国にてスマートフォンの受託製造サービス業(EMS)を手がける聞泰科技が252億元(約4100億円)で取得し、これが事実上の買収になると中国および欧米の複数のメディアが先週末に報じた。

NXPは、Freescale Semiconductorの買収に伴い、2016年にディスクリート、ロジック、MOSFETなどの製造・販売部門であるスタンダードプロダクト事業をBeijing Jianguang Asset Management(JAC Capital)とWise Road Capitalで構成される中国金融投資家コンソーシアムに約27億5000万ドルで売却することを決め、2017年2月に手続きを完了していた

Nexperiaと名付けられた新会社は、本社をオランダ・ナイメーへンに置き、ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFETからロジックICに至る幅広い標準的な半導体製品を年間850億個製造し、従業員は世界中で1万人を超えており、最近は車載向けロジックICに注力する動きを見せている。なお、同社は、中国広東省東莞市に所有している組み立て・検査子会社Nexperia Semiconductor(China)を最近拡張し、4000名の従業員を抱えるまでになっている。

半導体のIDMを目指す聞泰科技

一方の聞泰科技(Wingtech Technology)だが、本社は上海にあり、2006年に中国の通信機器メーカーである中興通訊(ZTE)の元幹部が設立した。スマートフォンなどの電子機器の組み立て請け負い企業(EMS:電子機器の受託製造サービス業)で、黒子的な役割のため、中国国内でも一般には余り知られていないが、2017年の売上高は約168億元とそれなりの規模を有している。現在、深セン、西安、上海の研究開発拠点を拡大し、チップ設計から製造、パッケージングに至る半導体IDMを構築して自前で半導体を製造する構想を持っていると言われている。AppleのiPhoneの製造を請け負っている鴻海精密工業のいわばライバルである。

不透明な米国での買収承認

Nexperiaは、ドイツと英国に前工程工場、中国、フィリピン、マレーシアに後工程工場がある。米国にも輸出しており、米国内に複数のオフィスを構えているので、今回の中国メーカーによるNexperia買収は、米国で安全保障に絡んだ投資案件を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の承認が必要となる。しかし、トランプ大統領は、中国勢によるテクノロジーや知的財産権の不公正な取得を阻止しようとしており、本件もすんなりとは許可されそうにない。中国当局が、米QualcommによるNXPの買収を独占禁止法の観点から事実上承認しなかった影響が出る可能性もある。もっとも、NXPがFreescaleを買収する際に手放した2部門(後述)はすでに中国の国策投資集団の手にわたっており、今さら米国が介入しても手遅れという見方も一部ではささやかれている。

米国が無理ならと、欧州に目を向けた中国勢

中国勢は、米国企業の買収や出資がことごとく米国政府に拒否されてしまっているため、米国での活動をあきらめて、欧州の半導体メーカーや装置メーカーに目を向け始めている。すでに中国の国策投資家集団はNexperiaだけではなく、同じくNXPがFreescale買収の際に切り離したRFパワー事業部門(社名はAmpleon)も買収しており、いずれ中国内のメーカーに転売して利ザヤを稼ぐのではないかと見られていた。中国最大のファウンドリであるSMICは、伊LFoundry(源流はルネサスのドイツにあった車載半導体工場だがリストラの一環で売却された)を事実上買収して車載半導体を強化している

EMS最大手の鴻海も半導体製造を検討

2017年、東芝メモリの買収に意欲を燃やしたが、経済産業省の政治的介入で失敗したEMS世界最大手の鴻海精密工業は、半導体製造をあきらめることなく、独自で300mmウェハに対応した量産工場を中国国内に建設し、自ら半導体製造に乗り出すことを検討しているといわれている。同社は、今夏、中国広東省珠海市政府と、半導体の設計や製造などの分野で協力する内容の戦略提携協定を締結しており、今後これが半導体工場建設に発展するのか注目される。

また、ファウンドリ業界では、トップのTSMCが江蘇省南京、2位の米Globalfoundries(GF)が四川省成都、3位のUMCが中国福建省アモイ(厦門)に、それぞれ300mmファブを建設して中国国内の顧客のために稼働している。GFは本社のプロセス微細化に対する方針転換とリストラにより、中国成都工場の身売り説が一時ささやかれていたが、成都工場の微細化ロードマップを取り下げ、22nmにとどめ、完全空乏型SOIデバイス(22FDX)を中心に製造品目を再編することで共同出資者である成都地方政府と合意したと10月26日に発表している

メモリ価格の下落など、市場の軟化が期待されている半導体分野だが、国策として自国の半導体製造力の強化に意欲を燃やす中国は、そうした動きは関係なしに、しばらく強気の動きが続きそうである。