太陽系第7惑星の天王星は、腐った卵のような臭いがするのかもしれない――。

米国航空宇宙局(NASA)などが参加する国際研究チームは2018年4月24日、天王星の雲の上部に、硫化水素が含まれていることを発見したと発表した。論文は『Nature Astronomy』誌の4月23日号に掲載された。

天王星の雲の組成は、これまで完全には判明しておらず、長年の謎だった。

研究チームは、硫化水素は海王星にもあると考えているが、一方で木星や土星といった他のガス惑星では観測されておらず、それぞれの惑星の誕生と進化の歴史の研究にも役立つ発見だとしている。

  • 1986年にNASAの探査機「ボイジャー2号」が観測した天王星

    1986年にNASAの探査機「ボイジャー2号」が観測した天王星 (C) NASA/JPL-Caltech

天王星の謎

天王星は1781年に、天文学者ウィリアム・ハーシェルによって発見された、太陽から7番目にある惑星である。中心部の核に分厚い大気が取り巻いたガス惑星で、しかし木星や土星などとは異なる種類のガス惑星「天王星型惑星」に分類されている。

地球からは最も近いときでも約26億kmも離れており、条件さえ整えば肉眼でも見えることはあるものの、詳しい姿かたちを見ることは望遠鏡でも難しい。また、それゆえに探査機が訪れることも難しく、これまで接近して観測したのは、1977年に打ち上げられたNASAの探査機「ボイジャー2号」のみしかない。

長年の地上からの観測、そして簿ジャー2号による観測によって、天王星の本体や、その周囲の衛星、そして輪などについて、ある程度は判明している。しかし、まだ多くの謎が残されている。そのうちのひとつが、天王星の雲の組成だった。

これまでの観測で、天王星の大気は主に水素とヘリウム、メタンからなっていることがわかっており、雲もそのメタンと水などが混ざった氷からできていると考えられていた。天文学者らはさらに、その他に硫化水素やアンモニアが含まれている可能性があるとして研究を続けてきたが、それらについて確固たる証拠はなく、正確にはわかっていなかった。

  • ボイジャー2号が観測した欠けている天王星

    ボイジャー2号が観測した欠けている天王星 (C) NASA/JPL-Caltech

マウナケア山にある望遠鏡で観測

英国オックスフォード大学のPatrick Irwin氏を中心とする国際研究チームは今回、ハワイのマウナケア山にある、ジェミニ天文台のジェミニ北望遠鏡を使って観測。天王星の雲で反射した太陽の光を、望遠鏡がもつ近赤外線域を観測できる装置(NIFS)で分析した。

このNIFSという装置は、もともと銀河系中心部にある巨大なブラックホールや、その周辺を観測するために開発されたもので、それが天王星の観測に応用された。

そしてその結果、天王星の雲の上部に、硫化水素が含まれているという証拠を発見したという。

研究チームのひとり、NASAジェット推進研究所のGlenn Orton氏は「これまで天王星には硫化水素があるとは考えられていましたが、それを確実に特定することは不可能でした。しかし、ついに辻褄が合いました」と語る。

Irwin氏は、硫化水素の吸収線(吸収された波長が示す暗い線)はきわめて弱いため、これまでは検出が困難だったと振り返る。「私たちが見つけようとした線はほんのわずかにしか見えないものでしたが、ジェミニ北望遠鏡のNIFSの性能と、マウナケアという観測にとって絶好の条件の揃った場所の組み合わせによって、きわめてはっきりと検出することができました」と語る。

  • ジェミニ北望遠鏡

    ジェミニ北望遠鏡 (C) Gemini Observatory/AURA

太陽系の誕生と進化の歴史の研究にも役立つ発見

研究チームはまた、天王星に似た惑星である海王星の雲にも、硫化水素が含まれていると考えている。ただ、天王星より太陽に近いガス惑星である木星と土星では、これまで硫化水素は観測されていない一方で、アンモニアが観測されている。この違いは、それぞれの惑星の誕生と進化の歴史に関係していると考えられている。

研究チームのひとりである、英国レスター大学のLeigh Fletcher氏は、「このアンモニアと硫化水素の違いは、太陽系が誕生したころの、それぞれの惑星の誕生時の温度と位置によって、窒素と硫黄のバランスが異なった結果、生まれたと考えられます」と語っている。

また、木星や土星、天王星、海王星は、もともといまより太陽系の内側で形成され、あるときそれらの惑星が大きく動くダイナミックな出来事が起き、現在の場所にたどり着いたという説もあり、今回の硫化水素の発見や、アンモニアをもつ木星と土星との違いは、そうした太陽系の進化の歴史の研究にも役立つという。

ちなみに硫化水素というと、腐った卵や温泉地、温泉卵から臭う、あのつんと鼻をつく刺激臭でおなじみである。もし将来、人類が天王星を訪れることになっても、ちょっと近づきたくない。

もっともOrton氏によると「天王星の大気は水素、ヘリウム、メタンが大部分を占めており、気温もマイナス200度しかありません。臭いを嗅ぐ前に大変なことになるでしょう」と語る。

またジェミニ天文台では、「天王星に硫化水素があるという事実は、人間にとっては不快なものかもしれません。ですがこの新しい発見は、太陽系の初期の歴史を探り、太陽系以外の恒星を回る他の惑星系を理解するために、天王星が重要な役割を果たすかもしれないことを示しています」と結んでいる。

ちなみに中国は、2030年ごろに天王星に探査機を送り込む構想を打ち出している。他国に類似の計画はないため、実現すればボイジャー2号以来、史上2機目の天王星の接近観測となる。その観測によって、さらに多くのことがわかるかもしれない。

参考

Detection of hydrogen sulfide above the clouds in Uranus’s atmosphere | Nature Astronomy
News | What Uranus Cloud Tops Have in Common With Rotten Eggs
What Do Uranus’s Cloud Tops Have in Common With Rotten Eggs? | Gemini Observatory
Uranus Fact Sheet

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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